♩♩♩『未知への飛行』星五つ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️映画の殿堂入り決定♩♩♩
こんにちは!映画好き絵描きのタクです。今回レビューする映画は、『未知への飛行(フェイル セイフ)』(原題Fail Safe)。1962年制作のアメリカ映画です。
『未知への飛行(フェイル セイフ)』(原題Fail Safe)ほど強烈な反戦映画、いや、反核映画は無いと思います。日本での劇場公開はアメリカ公開から遅れに遅れて1982年でした。
全編モノクロです。あえてモノクロで撮った監督は、社会派と呼ばれるシドニー・ルメット。
50年以上経った今見ても、『未知への飛行(フェイル セイフ)』は核の怖さ、軍拡の危うさをグサリと突きつける一級品の反核兵器スリラーだと思います。
ウクライナ戦争で核の脅威が再び現実となってきている今だからこそ、知って観てほしい映画です。古く見えるけど、凄まじく新しい映画をレビューします。
『未知への飛行-フェイル セイフ』あらすじネタバレあり
時代は冷戦真っ只中のアメリカ。ドラマの舞台は司令部、大統領執務室、爆撃機のコクピット…と、全編ほぼ閉鎖空間でストーリーが進んでいくストーリーです。
闘牛士の夢
軍人ブラック大佐の夢から物語は始まる。
頻繁に見る闘牛のその夢は牛を倒した闘牛士の顔が見えない。
そこで大佐は汗まみれで夢から目覚める。
場面変わって、とある空軍基地。
爆撃機が次々離陸する。その飛行は通常任務のありきたりの飛行なはずだった。
しかし、小さな機械の故障・トラブルの重なり=手違いで、六機編隊の水爆搭載爆撃機は「帰投不可ライン=フェイルセイフ」を越えてしまう。
「帰投不可ライン=フェイルセイフ」とは、軍のトップである大統領が「引き返せ」と命じてもその命令は無視されねばならいラインのことだ。
パイロットは、フェイルセイフを越えた時には、たとえ帰投の大統領の中止命令を無線で受信したとしても、その命令は無視し、帰還せずに敵国に核を落とすよう、訓練されている。
水爆を落とす目標は、なんと、、、ソ連の首都・モスクワ。
その敵国とは、ソ連。投下目標は、モスクワだ。
アメリカ大統領はソ連の書記長とホットラインでつなぎ、なんとか爆撃機を引き返させようと手を尽くす。
しかし、すでに爆撃隊は国境空域を越えてしまう。
モスクワ壊滅が寸前に迫った大統領は、衝撃のとある決断をする、、、。
映画を見る方は閲覧注意!〜以下、結末まで
「帰投不可ライン」を越えたパイロットは、訓練通り水爆投下地点=モスクワへと向かう。
アメリカ大統領はモスクワの書記長にホットラインでこう頼み込む。
「越境は、人為的ミスの積み重ねによる間違いだ。我が国の爆撃機を迎撃、撃墜してくれ」と。
モスクワの防衛空軍部隊が迎撃に向かい数機を落とすが、一機は目標上空に達してしまう。
水爆投下。
言葉を失ったソ連書記長に、アメリカ大統領はこう言う。
「申し訳ない。代わりに我が国の首都…ニューヨークに、核を落とします」
空軍基地を飛び立った爆撃機を操縦するのはブラック大佐だ。
機はニューヨーク上空に到達する。
水爆投下のボタンを押し、服毒する大佐。
大佐は繰り返し見ていた夢の闘牛士が、無慈悲な殺戮者となる自分を暗示していたことに気づく。
いくつものありふれた日常シーンが、突然、終わりを告げる。
『未知への飛行-フェイル セイフ』闘牛士は何を意味する?
この映画の冒頭は闘牛で始まります。
それが空軍大佐の夢だということはすぐわかります。
しかし、その後、闘牛のエピソードはクライマックスまで何も出てきません。
その闘牛の夢の意味は人によって捉え方がいくつかあると思いますが、僕なりの意味づけを書いておきます。
闘牛の牛は「何も知らされないまま舞台に上げられた存在」です。
それは=今を生きる人々:一般市民=を意味しています。
一方、「闘牛士はそんな舞台に上げられた存在に一方的に死を突きつける役割」です。
夢を見た大佐は、結末で闘牛士の役割を演ずることになります。
大佐は一般市民とは異なり、軍人です。
軍人とは国家権力の手足でもあります。
権力を持ち得ない一般市民に対し、国家権力は一瞬で死を下す存在でもある、、、という恐怖。
その恐怖を闘牛士の夢エピソードは暗喩している….これが僕の推測です。
『未知への飛行-フェイル セイフ』「音」に凍る
ネタバレには、書いていいネタバレと、そりゃあかんだろうというネタバレがありますね。
クライマックスで、「ある音が水爆投下の表現になる」、と言うことだけ書いておきます。
この映画ほど、「音」に背筋が凍った映画は、ぼくは観たことがありません。
書きたいけど書けない、、、ぜひ観て、「音」を聞いてほしいです。
『未知への飛行-フェイル セイフ』何が「古くて新しい」のか?
ほぼ実写戦闘シーンがありません
先に『未知への飛行-フェイル セイフ』は閉鎖空間でドラマが進む、と書きました。
密室で進むこの映画には、いわゆる戦争映画に出てくる戦闘シーンが、ほぼありません。
爆撃機の存在は、モニター上の点で表現されるのです。
迎撃されるくだり=実際にはドッグファイトになっているであろう状況も、レーダーモニタにチープに光る、複数の緑の三角マークでしかありません。
司令部と大統領の臨時地下オフィス、そして爆撃機コクピットまでは繰り返し映るのですが、あとはレーダーモニタに明滅する「光点」…
ぼくは、逆にそんな『未知への飛行-フェイル セイフ』の表現に、ごくりと息を飲みました。
ちなみに、爆撃機の飛行シーンは、あえてネガポジ反転させた映像を使っています。
これは、どうやら軍から撮影協力を拒否された結果、そういうテを使ったようです。映画の内容が内容だけに仕方のない気もしますが、でも、逆に「ネガポジ反転させた映像」が渋すぎる密室臨場感を醸していると思います。
とにかく緊張感が続く密室の息苦しさが、映画を観るこちら側に痛いほど伝わってきます。「古くて新しい」とはまさに、の表現です。
密度の濃いセリフ
さらに、『未知への飛行-フェイル セイフ』では、俳優が発するセリフも、密度がめちゃくちゃ濃いです。
ヘンリーフォンダ演ずる大統領の苦悩、ウォルターマッソー演ずる学者のはじけ方、軍人たちの瀬戸際の駆け引き、と、いろんなセリフが飛び交います。
ですが、セリフにいっさいの無駄がありません。
余計なもの削ぎ落としてます。
だから、リアル。だから、怖い。
と感じました。
『未知への飛行-フェイル セイフ』ぼくの評価は?
映画が作られた1964年というと、機械とコンピューターが、まだまだ人間の手が必要だった時代です。しかし、内容は十分「今」に通じています。
公開当時から60年。ウクライナ戦争が世界を巻き込み、コンピューターがすでにブラックボックスとなり、AIが知らぬうちに当たり前となった今だから、『未知への飛行-フェイル セイフ』で描かれる凡ミス積み重ねの怖さはリアルすぎです。
多くの方に観て欲しい映画ですので、「ムービーダイアリーズ」映画の殿堂入り♩決定、ぼくの評価は満点です。
『未知への飛行-フェイル セイフ』最後に水野晴郎さんのこと
ちなみに『未知への飛行-フェイル セイフ』の日本公開は1986年前後だったのでは、と記憶しています。当時ぼくは劇場で観て衝撃を受けました。
当時ぼくが買った映画パンフレットには、映画評論家・水野晴郎さんによる「絶対に広めなくてはならぬ映画だ」という解説が載っていたような、、、気がします。
そして確か日本公開は、水野晴郎さんのセルフプロデュースによるもの…だったように記憶しています、、、でも、非常に記憶が曖昧です。間違いだったらごめんなさい。
パンフをなくしてしまったのが非常に悔やまれる映画です。。。
『未知への飛行-フェイル セイフ』制作スタッフとキャストのメモ
『未知への飛行-フェイル セイフ』の監督はシドニー・ルメット。ぼくがかつて観た映画では、「セルピコ」「狼たちの午後」「評決」「旅立ちのとき」「十二人の怒れる男」。そんな作品を撮っていた監督です。社会派。
キャストは大統領役にヘンリーフォンダ。アンチ反核の教授にウォルターマッソー。他
『未知への飛行-フェイル セイフ』リメイク情報
映画『未知への飛行-フェイル セイフ』は2000年にジョージクルーニー制作総指揮でリメイクされています。
リメイク作品ではジョージ・クルーニー、リチャード・ドレイファス他が演じています。
Filmarksさんのサイトを見ると四つ星評価になっており、レビューも押しなべて高評価のようです。
2023年現在、配信はされていませんがDVDがアマゾン他で入手可能です。
『未知への飛行-フェイル セイフ』配信情報
Amazon Prime/UーNEXT/AppleTV/YOU TUBEでレンタルできます。
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