映画『テノール!人生はハーモニー』は、下町でラップバトルに明け暮れる一人の若者が、パリオペラ座の声楽指導者にテノール歌手の才能を見出されるストーリー。原題は『Tenor』。フランス映画です。
映画館で予告編を観て、「この映画、ヨイかも!!」と思って観てみました。ラッパーMB14が役に入って、実際に歌声を披露しています。
はたして主人公のテノールの歌声はどう響いたか?レビューしてみます。
「下町の日陰の暮らしに甘んじていた男が、自分の居場所を見つけた物語」です。
『テノール!人生はハーモニー』ぼくの感想です〜あらすじ含みます
「光と影」のハーモニー
音楽がストーリーの柱になる映画は、駄作が少ないように思います。
音楽、楽曲自体が感動を人に与える芸術だから、映画自体が少々ありきたりのストーリーであっても、その難を隠してくれるんだと思う。
『テノール!人生はハーモニー』ではラップとオペラという、一見相容れないような音楽ジャンルが柱になっています。
そんな2つをストーリーの核に置いたアイデアはフランス映画らしいセンスだな、と思いました。
なんてったって、映画の舞台装置が「場末のライブハウス」と「パリ・オペラ座」ですよ。
パリ・オペラ座シーンは、すごいです。レッスン室…というか、こんなとこでレッスン受けるってアリかい?というほど素晴らしすぎます。
映画を観ていてその豪華絢爛さ、舞台の広さといった「内幕」に惚れ惚れしました。『テノール!人生はハーモニー』の最大の見どころの一つと言って良いでしょう。
では、ここで数行簡単にストーリー紹介です。
+ + +
主人公アントワーヌは、場末ライブハウスでラップバトルをやってるしがない若者アントワーヌ。兄は賭けの喧嘩で生計を立てている、、、そんなギリギリの生活だ。
ある日、アントワーヌがバイト先のスシ屋デリバリーで訪れた先が、パリ・オペラ座。
そのパリ・オペラ座内でアントワーヌはレッスン中の声楽講師に、その声を認められる。「オペラ座で声楽を学ばないか?」とさそわれるアントワーヌ。
アントワーヌは暮らす世界の違いにとまどいながらも、次第にオペラの魅力にはまっていく。
しかし、「裏路地での生活」というそれまでの過去が彼の道に暗い影を落とす。アントワーヌはオペラへの道を拓くことができるのか?
….というあらすじです。
+ + +
もう、映画の全てが「光と影」のハーモニー。といいますか、「ひなたと日陰」の引き合わせ。
ぼくらもまわり見渡せば、そんな対極、なんぼでもありますよね。
「プラスとマイナス」「昼と夜」「貧困層と富裕層」「男と女」「白と黒」「ちびとのっぽ」…。
『テノール!人生はハーモニー』は、それらがくっつくところにドラマって生まれるんだなあ…ということを教えてくれます。 それもフルコースてんこ盛りで。
登場人物・対比表
ラッパーがテノール歌手の才能を見出されて、階段登っていくストーリーですが、そう簡単には登れません。
なんといっても主人公アントワーヌの周りには、自分が持っていないものを持つ登場人物ばかりがいます。
ドラマの歯車となる登場人物を対比してあげてみるとこんな感じです。
A/キャリア豊かなオペラ講師と、無名のラッパー・アントワーヌ
B/腕っぷしは強いけど気のいい兄貴と、頭の回転早いアントワーヌ。
C/アントワーヌに思い寄せる幼馴染と、にぶいアントワーヌ。
D/金持ちの息子のテノール男子と、金のないテノールアントワーヌ。
E/これまた富裕層娘のソプラノ女子と、貧困層男子のアントワーヌ。
もし、アントワーヌが自分だったら?と置き換えてみても、これはドタバタスラップスティック必至ですよ。
案の定、歯車なんてそう噛み合うものではないですから、起承転結ことほど左様に、アントワーヌの進む道には、あれこれアクシデントやすれ違いが生まれます。
そんなアクシデントやすれ違いのハラハラドキドキを楽しみながら『テノール!人生はハーモニー』は進む、、、のかな、と最初は思っていたのですが、なぜだかぼくは、ハラハラドキドキできなかったのです。
ハラハラ(汗)感想
あれこれ起こるドラマの進む中で、ぼくもハラハラのハラ…くらいまでは感情が引っ張られるのですが、そのあとがことごとく続かなかった。
もちろんストーリーには曲がり角がいくつも仕掛けられています。その角で、ドキドキも楽しめるはず…なのですが、気持ちが乗って行かず、「ん?」くらいで終わっちゃう。
結局ぼくは映画に気持ちをライドさせることができなかった、残念な一本となりました。
もちろんアントワーヌが歌い上げるシーンは逸品です。
いくつも声楽シーンは設けられており、それは楽しめますし、歌声も素晴らしいです。
それでも映画全体としてみたときに、先にあげた、いくつもの歯車、
A/キャリア豊かなオペラ講師と、無名のラッパー・アントワーヌ
B/腕っぷしは強いけど気のいい兄貴と、頭の回転早いアントワーヌ。
C/アントワーヌに思い寄せる幼馴染と、にぶいアントワーヌ。
D/金持ちの息子のテノール男子と、金のないテノールアントワーヌ。
E/これまた富裕層娘のソプラノ女子と、貧困層男子のアントワーヌ。
それら全てが、料理に例えるなら「煮込む途中で火をとめた」感じでした。味が中途半端な煮込み料理みたいな、、、。
ラップと字幕
辛口になりますが、ラップバトルシーンの「日本語字幕」も、気持ちが冷めたシーンの一つです。
映画が始まり、アントワーヌが言葉とリズムで、もう一人のラッパーとバトルします。フランス語ラップに日本語字幕が入るのですが、どうもその日本語スーパーが映像とラップに合わない。
ラップは、詩だと思います。
翻訳にはその詩としての韻の感覚を感じることができませんでした。
ギリギリを越えた意訳でもいいので、ラップのリズムに日本語訳を乗せてほしかったです。
先日、翻訳家太田直子さんが書いた文庫字幕屋のホンネ (知恵の森文庫)を読みました。
その本には、書籍の翻訳とは違う、映画ならではの意訳の妙が書かれていました。めちゃくちゃ感動しました。(洋画好きの方、必読かも)
その本読んだばかりでもあったので、なおさら残念な字幕でした。
あまり辛口は書きたくないのですけど、こういうふうに観た人もいるということで、、、。
でもね、ラストの歌声には鳥肌立ちましたよ。アントワーヌ(MB14)の歌声、素敵でした。
『テノール!人生はハーモニー』エンディング曲と壁画のこと〜ネタバレ閲覧注意!
ラスト&エンディング使用曲は?
以下は、『テノール!人生はハーモニー』のラスト使用曲です、ネタバレになりますので、映画観る方は楽しみにとっておいてスルーしてください。
クライマックスは定番テノールで歌い上げられます。
以下、ネタバレします。
アントワーヌが歌い上げる曲はプッチーニの〈トゥーランドット〉より、
『誰も寝てはならぬ』です。
曲名を聞いてわからなくても大丈夫、誰もがかならず聞いたことがあるオペラの名曲です。
アントワーヌ(MB14)の素晴らしい歌声が、それまでぶつかり合っていた兄や仲間たちを包み、
幕が降ります。
今回、辛口レビューともなりました。
だけど、でも、アントワーヌの歌と、歌声を受け止める兄弟や友人たちの表情に、ぼくは光の中に吸い込まれる感じがしました。
ラストの「天井壁画」に込められた、隠されたメッセージ
そのラストのほんとラスト、とある天井壁画が登場します。もちろんパリオペラ座に実際ある天井画です。
描いたアーティストは時代を超えた有名画家ですが、いったい誰の作品でしょう?。
それは、「愛」を描かせたら右に出るものはいない、とまで言われたシャガールの絵なのです。
映画で制作陣が描き伝えたかったことは、「師弟愛」、「兄弟愛」、「男女の愛」、「友との愛」…と、さまざまな形の「愛」だったんだと思います。
制作陣は、あえて結末にシャガールの壁画を見せることで、愛のメッセージを観客に送ったのだ、と思います。
シャガールの絵をラストに持ってきて、映画メッセージを暗に込めるなんて、なんと粋な!
愛の国フランス映画らしいエンディングでした。
『テノール!人生はハーモニー』ぼくの評価は?
65点です。
こんな方々におすすめです。
●映画、難しいこと言わないで気分で楽しみたい派
●オペラが好き。ラップが好き。音楽映画が好き。
●我流で道を進むのが好き。
●チャンスって、どこに転がっているかわからないものだ、と思っている人。
『テノール!人生はハーモニー』監督・キャスト
監督:クロード・ D ・ジュニア
キャスト:MB14 ミッシェル・ラロック/ロベルト、アラーニャ/ギヨーム・デュエム/ステファーヌ・トゥバック/マエヴァ・エル・アルーシ/サミール・デカッツァ/マリー・オベール/ルイ・ド・ラピニエール 他
『テノール!人生はハーモニー』配信先は?
配信は以下の通りです。レンタルのみのようです。(2023年11月現在)
配信先 | 配信・レンタル状況 | 無料期間&料金 |
U-NEXT | レンタル | 初回31日間無料 2,189円(税込) |
DMM TV | レンタル | 初回30日間無料 550円(税込) |
Rakuten TV | レンタル | なし 登録料無料 |
TELASA | レンタル | 初回2週間無料 618円(税込) |
クランクインビデオ | レンタル | 初回14日間無料 990円(税込) |
MB14とロベルト・アラーニャが本編で歌う公式映像
最後に主役を演じたMB14とフランスの大物オペラ歌手ロベルト・アラーニャが劇中で歌う公式映像を貼っておきます。
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