解説『ノーカントリー』ネタバレ考察「一階足りない」の意味からあらすじラスト・感想・評価まで|殺し屋シガーの怖さを読み解く

スリラー・SF・アクション

『ノーカントリー』評価:85点・星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨

こんにちは、映画好き絵描きのタクです。今回レビューで取り上げる映画は、『ノーカントリー』。スリラー映画です。(2007年公開のアメリカ映画)

2007年度アカデミー賞で作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の4冠ゲット。他各国映画祭でも受賞多数、日本でも2008年度のキネマ旬報外国語映画第1位を獲っています。

監督はコーエン兄弟。(ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン )『ファーゴ』(1996年)『オー・ブラザー!』(2000年)『バーン・アフター・リーディング』(2008年)などがあり、第68回カンヌ国際映画祭会では審査員長にも就任。俊才兄弟ですね。


ちなみに『ノーカントリー』ってどういう意味なの?って思いませんか?

原題は『No Country for Old Men』となっています。直訳すると「老人のための国はない」う〜〜ん,「老いたるは死すべし」みたいな意味??どういう映画なんだろう???「スリラーのタイトルとは程遠いような????。
おまけに「スリラーでアカデミー四冠」って、あまり聞きませんよね?

そんな、タイトルの意味も含めて、スリラーのくせに(失礼!)「アカデミー四冠他受賞多数」も気になって仕方がなかった『ノーカントリー』をレビューしてみます。




『ノーカントリー』予告編




『ノーカントリー』スタッフ/キャスト紹介

監督・脚本:ジョエル・コーエン イーサン・コーエン
キャスト:トミー・リー・ジョーンズ/ハビエル・バルデム/ジョシュ・ブローリン/ウディ・ハレルソン/ケリー・マクドナルド/ギャレット・ディラハント




『ノーカントリー』あらすじ〜ネタバレあり

まずは『ノーカントリー』のあらすじを以下に紹介しておきます。映画を冒頭から楽しみたい方はスルーしてくださいね。

+ + +

舞台はアメリカ、テキサス。

とある保安官事務所に逮捕された男が一人。男は隙を見て保安官を絞殺し姿を消す。

男はアントン・シガー(ハビエル・バルデム)。冷徹を絵に描いたような殺し屋だ。

同じくテキサスの荒野で男モス(ジョシュ・ブローリン)がハンティングをしている。

モスは麻薬取引のギャング同士のトラブルの現場に居合わせ、200万ドルが入ったカバンを見つける。

「貧しい暮らしから抜け出せる…」と、モスはカバンを持ち逃げする。

しかし、モスは元溶接工。ダークサイドのプロではない。身元はすぐに町の老保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)に知られてしまう。

一方、保安官を殺害し姿を消したシガーは、ギャングのボスから200万ドルを奪い返すよう依頼されていた。

殺し屋シガーの冷酷な手口を知った老保安官ベルは、モスを案じる。

カバンを持ち、街を出て身を隠すモス。

しかしカバンには発信機が仕込まれ、殺し屋シガーが迫る。

シガーはプロだ。銃の腕前は的確無比。

容赦のないシガーの銃撃で腹に深手を追ってしまうモス。

しかし、モスのショットガンによる反撃でシガーも傷を負う。

辛くもシガーを巻いたモスはカバンを隠し、病院で手当を受ける。

そんな入院しているモスの元に一人の男ウェルズが現れる。

ウェルズは、シガーに依頼したボスから同じように雇われた殺し屋だった。

「俺と組むことでシガーからお前を守ってやる」と、取引を持ちかける。

しかし、ウェルズはシガーの手にかかり射殺。

一方保安官ベルは、モスの妻に会い、モスが敵わないことを話す。

シガーはモスを、そして妻をも殺害すべく追い詰めてゆく…。

モス、シガー、そして保安官ベルの辿る3本の糸はどう絡み合っていくのか…?




『ノーカントリー』ネタバレ結末ラストまで〜閲覧注意!

以下は結末ラストまでのネタバレとなりますので、映画を見たい方はスルーしてください。

+ + +

保安官ベルがモスの滞在先のモーテルに向かうが、一足違いでモスは射殺され、カバンは奪われる。

無力感に打ちひしがれるベルは、シガーを逮捕するきっかけを得ようとモス殺害現場のモーテルを再訪する。

現場にシガーは戻っていたのだが、シガーはベルにわかられないよう姿を消す。

しばらくして妻が義理母の葬儀の後、実家に戻ると部屋にはシガーが座っている。

シガーは冷徹に仕事をこなし、車で妻の実家を後にする。

と、シガーの運転するステーションワゴンに一台の車が激突、車は大破。

衝撃で深手を負ったシガーだったが、現場から歩いてどこかへと消え去る。

事件は終わり、保安官ベルは退職。

ベルは家で妻を相手に見た夢の話をし、ドラマは終わる。




『ノーカントリー』解説・考察

殺し屋のセリフ「このビルは一階足りない」の意味

最初にセリフ謎解きをしたいと思います。

この映画は「そのセリフ、どういう意味?」といくつか疑問が残る映画なんです。なので、ネット上にも疑問「あのシーンの意味、よく分からんかった」というコメントが結構あります。

なので、解説考察は「謎解き」からスタートします。

その中の一つが、シガーとは別の殺し屋が雇われるシーンで、殺し屋がクライアントに言うセリフ「このビルは13階しかないのにここは14階だ」です。

それに対して雇い主は答えないのです。

ということで、「いったいこのセリフの意味は、何???なんなの??」と疑問に思われる方多いのでしょう。

これはもちろんキリスト教文化圏スタンダードのセリフなのでしょう。

「13」という数字を忌むことによって13階を14階表記にしているのでしょうね。

日本の病院の病室ナンバーに「4」の数字が「死」につながるから忌み嫌われ使われないのと一緒ですね。

そのことを殺し屋が平気で疑問形でしゃべってくるところに、実は『ノーカントリー』の「殺し屋映画」としての深みがあります。

 

どういうことかというと、ここで「この殺し屋、アホだな」とだけ思うだけでなく、もうひとおし深く考えてみると「殺し屋稼業をなりわいにしている人々」の人間性を浮き出させているです。

以下がぼくの考えです。

殺し屋は「殺し」に関してはもちろんプロフェッショナルに違いないけれど、一般常識が欠けている人間が多い…という暗喩ではないか?

そうぼくは深読みしました。

その証拠に、殺し屋の雇い主の表情を思い出して(注目して)ください。

雇い主の呆れたような表情にも「お前ら(殺し屋)みたいな常識知らん奴らにとは、ほんとは付き合ってられんよ…」という心のうちが現れていると思いました。




殺し屋シガーの殺しの道具は◯◯◯

殺し屋シガーが殺人に用いる道具も「あれ、いったいない?」とわからない方、多いと思います。

シガー愛用する殺人ツールは一見すると酸素ボンベみたいなのですよね。

あれ、「牛の屠殺に使う、ボルト打ち込み機」なのです。

牛の額にボルトを酸素の圧力で打ち込む式のいわゆる、業務用ツールです。

よくもまあ考えたものです。

しかし、この「ボルト打ち込み機」は、最初はどんな道具なのか、観客には分かりません。

映画の中では、その道具に関する説明セリフは出てきません。

ぼく自身、どこでわかったかというと、途中で老保安官の「牛を殺す時ウンヌン…」という独り言のようなセリフです。

なんとな〜く「シガーの武器はボルト打ち込み機だったのか」と推測できたのでした。

わかった…といっても老保安官のセリフは「暗喩」でして、説明ではありません。あくまで全体から推測するしかないという観客泣かせのシナリオです。

もちろん監督は、「あれはボルト打ち込み機なんです」といった無粋な説明を避けることで、シガーの怖さ増幅を狙っているに違いないです。




過去スリラー映画最大級の冷徹殺人マシン=シガーの考察

謎解きは以上にして、ここから感想です。

スリラー映画はたくさんありますが、正直に言っちゃいます。ヒットマン・シガーの怖さにのけぞりました。

こんな怖い殺し屋は、過去見たことがありません。ドラマの中で、ほぼ主人公として君臨しています。

映画に出てくる殺し屋って、ある種のカタみたいなのがありますよね。

『ノーカントリー』でハビエル・バルデム演ずる殺し屋アントン・シガーは、そんなカタから逸脱してます。それはもう今まで見たことのなかった冷徹さで人を殺していきます。

シガーの表情は、見たことない無表情。笑わない目ってよくあるけれど、病的を通り越した目の冷たさです。

もう、スクリーンにシガーの後ろ姿が登場するだけでコワイです。

対話が成立しないのが怖い

その殺し屋シガー、どんなところが怖さになっているのかを考えてみました。

普段、僕らの日常では「会話」ってキャッチボールですよね。

ところが殺し屋シガーが一般人と会話するシーンにおいては、ことばのキャッチボールが奇妙にズレているんですよね。

この会話のズレが、怖さを押し上げています

会話がズレる人ってたまにいますけど、そんなレベルではない、ザワッとくるズレ方です。

かといって、いつもズレているわけではないのです。

もう一人登場する殺し屋との対話はそこそこズレがない。

「仕事で殺すことが決まっている相手」と「殺そうが殺すのやめようがどうでもいい相手」への会話を使い分けている空恐ろしさがスクリーンから迫ってきます。

『ノーカントリー』の脚本のすごさを感じました。




シガーの靴下が怖い。

靴下が怖いって書きました。ちょっとネタバレになりますが、靴下姿で仕事をする殺し屋って見たことなかったです。

シガーのその靴を脱いで仕事をするスタイルは、「無音の怖さ」につながっています。「コツコツ…」って靴音がしないのって、実は怖いんですね。

怖さをどう演出するか?が、スリラーではキモとなりますが、まさか靴を脱ぐことで怖さが高まるとは、ぼくは思ってもいなかったです。

考えてみると西洋って靴文化ですもんね。「靴を履かない」ということ自体が異常感につながっているんだと思います。

シガーの猫背の姿勢と靴下だけでの静かな歩き方が、怖さ倍増でした。

痛みを表情に出さないシガーの怖さ

銃撃戦も緊迫感なかなかです。、そのあと、被弾しての「痛いシーン」も出てきます。

モスが被弾し具合を悪くするシーンは、ああ、気持ち悪くもなるだろうな、、、と、被弾したことないけれど観ているこちらも具合悪くなってきそうです。

しかしですよ、同じく被弾したシガーの表情は、それでもいつもとほぼ変わらない。ターミネーターか?って思ってしまいます。

この痛みを感じない演技=演出が、シガーの冷酷なクレイジーさを、さらに磨き上げています。

どこまでも同じ表情で追い詰めるシガーは、過去に観た殺し屋の中で最も冷酷無比。(シガーほど表情変わらない殺し屋も見たことがなかったです。ロボットキラーのターミネーターは別にして)

ぜひ、怖がってください。




 

「すんげ〜!!」が8割・「そのセリフ、ピンとこないよ」が2割

正直に言っちゃいます。

観劇直後、この映画は「すんげ〜!!」が8割でした。

そして「ごめんなさいっ!そのセリフの意味、ぼくには分かりません…」がいくつかありました。

セリフの意味がピンとこなかったシーンがどこかというと、全て「老保安官ベルのセリフ」でした。

「無駄なセリフは一切ない」が名作の基本です。

「すごい映画だ」と思ったのは確かでしたので、「ピンとこないセリフ」は、あくまでぼくの理解力の弱さ…と、ちょっぴり情けなくなったぼくでした。

ですが、原題の翻訳を調べたら、「エウレカ!なっるほど!!」となりました。

ということで、以下に原題の意味をぼくなりに探ってみました。




原題『No Country for Old Men』が持つ意味は?

先にも書きましたが、よくわからなかったので、ぼくなりに調べてみました。

この映画『ノーカントリー』は同名の原作小説が元になっています。

コーマック・マッカーシーの小説『ノー・カントリー』(原題: No Country for Old Men)です。

その原題「No Country for Old Men」ですが、W・B・イェイツの詩「ビザンチウムへの航海」からの引用とのこと。

その詩に映画のさらなる理解につながるヒントが隠されているように思えましたので、以下にその「ビザンチウムへの航海」前半をWikipediaから転載しますね。

ぜひ読んでみてください。

そこは老人の国ではありません。

若者たちはお互いの腕の中で、

木々の鳥たち- 死にゆく世代たち – 彼らの歌に合わせて

サケの滝、サバの群れの海、

魚、肉、家禽が夏の間ずっと賞賛する。

何が生まれ、生まれ、そして死ぬのか。

その官能的な音楽に魅了され、誰もが

不老知性の記念碑を無視します。

 

年老いた男はつまらないものにすぎない、

棒の上にボロボロのコート、

魂が手をたたいて歌わない限り

、死すべきドレスのすべてのボロボロのためにもっと大声で歌わない限り、

また、歌の学校もありませんが、

それ自体の壮麗な記念碑を勉強するだけです。

したがって、私は海を航海し、

聖地ビザンチウムにやって来ました。

以下略

 

ぼくは、『ノーカントリー』を見終わって、疑問を抱き、この詩を読み、はた、と気がつきました。

『ノーカントリー』は老保安官ベルの物語なのではないか、と。

老保安官ベルは、スリラーに出てくる、いわゆるガン捌き巧みでゴッツ頼りになる型通りの保安官ではありません。

犯罪と日々接する因果な商売に就き、年老いて退職寸前の、ボロボロ保安官です。

一方モスは、貧しい暮らしから抜け出そうと、200万ドルに手を出してしまうリアルな日常にもがく男

そしてシガーは現役第一線バリバリの殺し屋です。

モスとシガーは、ベルの世界には属さない=いわゆる老人の国の住人ではないのですね。

200万ドルをめぐって起こった事件のこのドラマの主役は、人生の苦渋を味わい尽くした表情が刻まれた老保安官ベルなのではないか?

クライマックスにおいて、「あれっ?」と感じるほどあっさり射殺体となって横たわっているモス、そして、どこかへ消えてゆくシガー。

どちらも実に淡々と客観的な見せ方です。

それらの表現からぼくはこう思いました。

「モスとシガーの事件は、ベルの保安官人生ので、白昼夢のような出来事の一つに過ぎなかった…他の国の出来事だったのだ」

ラスト、老保安官ベルは「夢の話」を妻と交わしてエンドロールとなります。

夢の話のラストからも、やはり、映画に描かれた事件はベルにとって「他の国の出来事=老人の国以外の出来事」だったのではないか、と思っています。

間違っているかもしれないけど、それがぼくの『ノーカントリー』でした。

 

『ノーカントリー』ぼくの評価は?

過去に見たことのなかった上物スリラーでした。

じわじわ怖い映画観たい方には、絶品おすすめです。

ぼくの評価は85点。星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨です

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