今回取り上げるレビュー作品は『スナイパー コードネーム:レイブン』。本作品は、実話がベースのウクライナ映画です。
2014年のウクライナドンパス地方へのロシア軍侵攻をウクライナ軍の狙撃兵視点で描いています。
「ロシアが恐れた伝説の実在スナイパーの半生を描く」というキャッチが引っ張ってます。
「狙撃兵」というテーマは、過去いくつもの映画で取り上げられています。パッと思い浮かぶ映画では『スターリングラード』や『山猫は眠らない』などがあります。
「狙撃兵」というと、多分、「一人静かに息を潜めてものかげに隠れ、引き金を引く時を待つ…」という孤独なイメージが絵になるのでしょうか?
今も戦争が続くウクライナの映画ですので、そういった興味もあってで見てみました。
2022制作の戦争映画です。
(トップに貼っている画像は、映画のシーンの中で、最も印象的だったワンカットを1分ドローイングしたものです)
『スナイパー コードネーム:レイブン』予告編
『スナイパー コードネーム:レイブン』のあらすじは?ネタバレあり
主人公は、平和主義社の変わり者物理学者ミコラ。愛する女性と人里離れた郊外で暮らしている。
そこへロシア軍が侵攻。ミコラの愛する女性は彼の眼前で射殺されてしまう。
己の力のなさに悲嘆にくれるミコラは、ウクライナの民兵組織に入隊し、スナイパーとしての猛訓練を受けることになる。
物理学者のミコラにとって、弾道、弾丸の速度、射程距離などの計算はお手のものだ。指導する上官は、みこらのスナイパーとしての群を抜いた才を見抜く。
初陣から始まり、上官や仲間達と幾つもの戦場を転戦するミコラ。
しかし、ロシア軍も手をこまねいてはいなかった。利き腕スナイパーを配置する。
ミコラの上官は、ミコラの敵兵への怒りに任せた射撃で居場所を割られ、絶命。
彼と仲間たちは、ロシア腕利きスナイパーを倒すべく、作戦を練り上げてロシア軍の布陣する工場へと向かう…
といったストーリーです。
『スナイパー コードネーム:レイブン』感想
実話が持つ淡々としたリアリティ
先にも書きましたが、『スナイパー コードネーム:レイブン』は実話です。
ですので制作にあたっては、実在のウクライナの伝説的スナイパー:ミコラ・ボローニン氏が脚本作りに参加。実践経験者のアドバイスが入っているだけあって、戦場のリアリティがありました。
伝説的スナイパーのアドバイスは、映画の随所に現れていました。
「スナイパーが動かずにじっと待つシーン」はもとより、特筆すべきは、スナイパーの移動シーンです。
狙撃兵が動くときは、敵狙撃兵に動きを悟られないほどの、極端に緩やかな動きで移動するのです。
そのシーンは静かすぎるほどですが、静の持つ緊迫感があり、映画を見ているこちらが身動きできなくなるほどです。
「なるほど!」と頷けました。
ピースマークとカラスのこと
話が前後しますが、冒頭、郊外で、自力で建てた小屋で愛する女性と二人で暮らしているシークエンスが登場します。そのシーンの中で女性が白い石でピースマークを作っています。
常々ぼくは「あ、ピースマークだ。よく見るけど、そういえば、あの『○に↑マーク』はどんな意味があるんだろう?」と思っていました。
映画ではしっかりとその意味にも言い及んでいる点もとてもよかったです。
ピースマークは、とある争いエピソードに出てくる、カラスの足跡なんだそうです。知らなかったな。
ちなみに映画のタイトルにもなっている「レイブン」とはウクライナ語で「カラス」のことなんですね。
映画が描きたかった、ウクライナの美しい大地
『スナイパー コードネーム:レイブン』の戦場シーンは思いのほか淡々と描かれていました。
淡々としているから浮き上がってくるものがありました。
それはウクライナの大地の美しさです。
ぼくには、戦いが行われている大地の映像が本当に美しく迫ってきました。
それほどまでにウクライナの自然を美しく撮影したのは、なぜでしょうか?
それは、母国が戦火に見舞われている今、ウクライナ人の、「守りたい祖国の大地への愛情」の表れなんじゃないか、、、とぼくは思っています。
特に印象深かったシーンがあります。
そのシーンは、枯れ草の間を静かに進軍する場面です。
兵士のかき分ける枯れている草を、よく見ると「ひまわり」なんですね。
そう、ウクライナ国旗のイエローはひまわりの色。その象徴を枯野に表現したこともまた、作り手のこだわりだと感じました。
『スナイパー コードネーム:レイブン』ラスト
以下、ラストです。当然ネタバレになりますので、今から観る方はスルーしてください。
実話ということで観てきた『スナイパー コードネーム:レイブン』ですが、観る側としては、実在のスナイパーが、今のウクライナ戦争でも戦場にいるのだろうか?と当然思います。そう、ラストは今のウクライナ最前線のカットで終わります。それまで出てこなかった冬の雪に覆われた戦線。じっと動かない彼ミコラがいます。そして引き金のアップで、今も戦いは続いている、、、と示唆して映画は終わります。
『スナイパー コードネーム:レイブン』ぼくの評価は?
じっくり最後まで観れました。
もしかするとウクライナの戦意高揚映画かな、とも思いつつ映画と向き合いましたが、取り立ててそんな戦意高揚のハデハデしさは感じず、好感を持てました。
しかし、どこか、「映画見終わった」のカタルシスがなかったのも事実でした。
カタルシスって、別に「スッキリ」とか「あっぱれ」とかだけではありません。「ドヨーン」となって終わっても、カタルシスがある映画はカタルシスがあります。
なぜ、ぼくはそんなカタルシスを感じなかったのだろう???と、つらつらと考えました。
答えはすぐにわかりました。
今、ぼくらは否応なしにウクライナの戦場の様子を毎日のようにニュース映像=ドキュメント映像をライブで見せつけられているから、です。
「現実(日々のニュース)と虚構(映画)の境の。どちら側に身を置いて見ればいいのか、、、。」という心が、どこかで映画とスッピンで向き合う心にブレーキをかけているように思いました。
カタルシスを感じなかったのは、決して映画の作りのせいではなく、逆にぼくが居場所を無くし、混乱しているからかもしれない、、、そう思いました。
『スナイパー コードネーム:レイブン』監督・キャスト
監督:マリアン・ブーシャン
キャスト:パーヴェル・アルドシン、マリナ・コシキナ、アンドレイ・モンストレンコ
監督マリアン・ブーシャンは、ネットで調べても出自が出てこなかったです。新人なのか、それとも戦時下のウクライナ、いろんな事情があってのことか、、、。
標的は着弾まで9秒!?ウクライナ軍スナイパーの参考資料動画
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