映画『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』評価レビュー|サイパン島最後の部隊のあらすじ・感想・評価レビュー〜戦後も抵抗続けた大場部隊の事実

戦争・歴史・時代

今回のレビュー作品は、日本の戦争映画『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』です。

太平洋戦争末期の激戦地サイパン島。その島を舞台にアメリカ軍を翻弄し、アメリカ兵から敬意を払われた大尉がいました。もちろんぼく自身、そんな史実があったことは知りませんでした。太平洋戦争の記憶が薄れつつある今、事実をもとに作られた映画をレビューしてみようと思います。(2011年公開・日本映画)


『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』予告編



『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』解説

太平洋戦争末期のサイパン島が舞台だ。

サイパン島では押し寄せたアメリカ軍と日本軍が熾烈な攻防を繰り広げた。

そんな中、わずか47人の兵を率い45,000人もの米軍と戦った大尉がいた。大場栄大尉だ。ちなみに実在の人物だ。

彼はその戦略と機転でもってアメリカ兵を翻弄。米軍兵士から「フォックス」と呼ばれていた。

1945年8月のポツダム宣言受諾以降も、大場部隊がその事実を知らずにタッポーチョ山を拠点に戦い続けた実話を、日米双方の目線で描いている。




『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』スタッフ・キャスト

監督:平山秀幸 / 脚本:西岡琢也、Gregory Marquette、Cellin Gluck / 撮影:柴崎幸三 / 美術:中澤克巳

原作:ドン・ジョーンズ『タッポーチョ「敵ながら天晴」大場隊の勇戦512日

大場栄 大尉(フォックス) – 竹野内豊/堀内今朝松 一等兵 – 唐沢寿明/青野千恵子 – 井上真央/木谷敏男 曹長 – 山田孝之/奥野春子 – 中嶋朋子/尾藤三郎 軍曹 – 岡田義徳/元木末吉 – 阿部サダヲ/ハーマン・ルイス大尉 – ショーン・マクゴーウァン/ポラード大佐 – ダニエル・ボールドウィン/ウェシンガー大佐 – トリート・ウィリアムズ




『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』あらすじは?

太平洋戦争時、サイパンの戦いでバンザイ突撃で命を落とし損なった日本陸軍の大場栄大尉。最初は「玉砕」のみを考えていたが、民間人と関わるうちに彼らを護りながら戦うことを選ぶ。

一方、日本兵たちの死生観を理解していた日本に留学経験のあるアメリカ軍士官ルイス大尉は、日本人の無駄死にを避けるため、降伏を促す。

昭和20年8月15日、終戦となるが、しかし大場大尉らは敗戦を信じず、ジャングルに立てこもる…。

そんな筋だ。

ネタバレになるが、事実だからラストも書いておこう。

結末はこうだ。

大尉は抵抗の無駄を悟り、アメリカ軍への投降を決意する。

兵士たちは矜持を示しつつ隊列を組み、アメリカ軍に降伏する。

軍刀をアメリカ軍司令官に渡し、収容所に移送され、大尉らの長い戦争は終わる。

 

この投降クライマックスが、なんとも美しいシーンに仕上げられているのが頼もしかった。



『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』感想

『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』の功績

あらすじにも書いたが、舞台は陥落間近、そして陥落後のサイパン島だ。

いま、若い世代、、、(ぼくも若いとは思っているけれど)うーん、そうだなあ、平成以降に生まれた世代の人たちは、仮にサイパンに観光で行ったとしても、はたして、どうなんだろう?

かつて血で血を洗う激戦地だったとは、誰が思うだろう?

たとえ現地で知ったとしても、遠い昔の話くらいに思っておしまいなんじゃないだろうか?

『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』のドラマに描かれている、一人の将校がわずかな兵を率いて非戦闘員を護りながら、米軍に抵抗していた、それも終戦の8月15日を過ぎた後も…。

そんなことが事実としてあったとは、にわかに信じ難いのではないだろうか?

 

ぼくは、昭和生まれで太平洋戦争のことには比較的詳しい方だ。 

サイパンをなぜ米軍が欲しがったか?も、普通に知っている。

それはB29による日本本土爆撃がサイパンからでないと爆撃機の航続距離的に不可能だったからだ。

それゆえに、アメリカ軍はサイパンを欲しがった。

そして、激しい戦闘の末に手に入れた。

 

しかし、そんなぼくだって、映画のような日本軍による抵抗が終戦後も続けられていたことは、まったく知らなかった。

映画の情報を知った時も、こう思った。

「え?ウソだろ?戦後もサイパンで戦ってた兵士たちがいたの??」

そんな意味で、この映画が作られ、隠れた歴史を世に知らしめた価値は大きいと思う。

この映画は戦争アクションか?戦争テーマの人間ドラマか?

しかし、同時に、「映画として大丈夫かな?」という、あることについての危惧もあった。

あることとは、日本映画独特の、戦闘シーンの派手目のスタントアクションだ。『男たちの大和』の戦闘シーンはまさにそれだった。スタントマンのオーバー気味の演技が興を削ぐ。(スタントマンに責任はないです。あくまで演出の責任)

いつも思うことだが、日本のアクションは、妙に肩に力が入っているなあ、と感じてしまう。国民性なんだろうか?

戦闘シーン、特に撃たれて倒れたり、着弾で吹っ飛ばされたり、そんなシーンがオーバーアクション過ぎてヒーロー戦隊モノを観ている気分になってしまう。あ、決してヒーロー戦隊モノをけなしているわけではないですよ。ヒーローものはそうあるべきです。

ぼく自身戦後の生まれなので、ホントの戦場は知らないけれど、多分、戦争の現場はそんなシネマティックなものではなくて、泥まみれで腰抜けるほどめちゃくちゃカッコ悪いのでは、と、思う。

あくまでも想像だけど。

『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』では、恐れていた「それ」が少なかった。なので、少なからずホッとした。

決して皆無だったとはいえないけれど、かなり丁寧に泥臭さや汚さを意識して作られたように思う。

そう、この映画は、戦闘シーン全開のアクション映画ではなく、史実を脚色演出した人間を描いた映画なのだ。



『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』を支える名脇役

名脇役といっても、俳優ではない。それは空気感だ。

サイパンのジャングルが持っているだろう湿気や草木のうざさを丁寧に表現しながら、サイパンでロケしたのでは?と思わせるほど、空気感を描き出している。

そのロケの成果には、正直舌を巻いた。

ロケはタイだったかどこかその辺り、南の国でなされたとのことだが、美術監督と撮影監督のチカラワザだろう。

バンザイ突撃の後の死体が臭うように転がりまくっている荒れ果てた浜辺や、兵士や非戦闘員が彷徨うことになるジャングルのまとわりつくような空気は見事だった。

 

繰り返すけれど、空気感の表現は、ドラマにリアリティを与えると思っている。

『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』ではそんなロケの成果が見事だった。



登場人物のこと

主人公の大場大尉はじめ、登場人物のキャラの性格バックボーンの描き込みも丁寧で、キャラがたっている。

大場大尉の弱腰と優しさ、士官としての決断力がいくつかのエピソードを通して固まっていく様は、まるで粘土をこね上げ人物が形作られていく彫塑の制作過程を見るかのようだ。

唐沢寿明演じる任侠上がりの一頭兵、堀内今朝松 の存在感もストーリーのエンタメ性を高めている。

そして何より大場大尉以上に、もしかするとこのドラマの主役は彼女だったのではないか?とさえ思える、常に軍人に対し正論をぶつけてくる井上真央演じる看護師の青野千恵子の存在感。

戦争への反発心の塊とも言っていい青野は、いわば戦争へのアンチの代弁者的存在でもあるわけだが、その憎々しい表情でもって大場や日本兵に反発していく様は、ストレートに生きるのが難しいぼくらの様々な言葉を代弁しているようにも感じた。

残念だったのは、大場大尉と行動をともにした一般民間人のドラマが比較的希薄に感じられたことだ。

看護師青野や村長といった登場人物にそのドラマを託したのだと思うけれど、僕には民間人の戦時におけるすっぴんの感情が今ひとつ掴めなかった。

最も2時間という枠でそこまで求めるのは酷というものだし、その代わりに先に収容所に入った民間人と大場たちのやり取りにシナリオの重きを置いたのだと思う。

 

戦争が終わってなお抵抗を続けるに至るくだりは、とても納得できる作りだった。ジャングルの奥で抵抗を続ける兵士たちには情報が今のように瞬時に伝わるわけでは無いだろう。

特に「上官からの武装解除の命令がなければ降伏できない」と論ずる大場大尉の言葉には説得感があったし、逆に投降を決める大尉の苦渋の決断の表情が生きていた。

 

クライマックスは整列した兵士たちがアメリカ軍に投降するシーンとなるが、オーバーな演出やカット割りをすることなく感動をくれたことに、逆に演出の力をみたように思う。

 

ネタバレになるけれど、阿部サダヲ演じる、アメリカ軍に協力する英語の達者な一人の民間人が大場らとの交渉役を買って出るのだが、投降に反対する一人の兵士に、あっけなく撃ち殺されてしまう。

そのあっけなさに、みている私もやるせ無い気持ちになったが、多分に史実なのだろう(憶測です)。

なぜ、彼が、結果的に命を落とすことになったのか???…今もその問いが残っている。



『太平洋の奇跡−フォックスと呼ばれた男−』評価

歴史の影に消え去りかけていた史実を掘り起こしてくれたことへの感謝と、日本とアメリカ二つの視点から描いたこと、エンタメとしても楽しめたことで星四つです。







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