ネタバレ解説『涙するまで、生きる』あらすじ・考察・評価レビュー|タイトル原題「Loin des hommes」の意味まで

戦争・歴史・時代

こんにちは!映画好き絵描きのタクです。今回のレビュー作品は、フランス映画。2023年公開の『涙するまで、生きる』を取り上げます。

アルジェリア独立戦争を背景にディゴ・モーテンセン主演の学校教師が、一人の犯罪者を護送する、戦争映画の体裁もとりつつ、詩のような映像美で描かれる異色ロードムービーです。

原題は「Loin des hommes」。訳すなら「男たちから離れて」…よくわかりませんね。その辺の意味も調べつつレビューしてみます。

『涙するまで、生きる』予告編

『涙するまで、生きる』解説

アルベール・カミュの短編『客』をベースに作られた、アルジェリア内戦時のゲリラ対フランス軍の混沌とした中、殺人の容疑をかけられたアラブ人と、その護送を命じられた教師の、目的地までの道のりを描く異色ロードムービー。

カメラが捉えたアルジェリアの自然が秀逸。

監督ダヴィッド・オロファンは長編二作目。主役をヴィゴ・モーテンセンが演じています。

『涙するまで、生きる』キャスト・スタッフ

監督脚本:ダヴィド・オロファン

キャスト:ヴィゴ・モーテンセン/レダ・カテブ 他

『涙するまで、生きる』あらすじは?

時代は、1954年。舞台はフランスからの独立の機運高まるアルジェリアだ。

荒野の中の小さな小学校の教師・ダリュ。

彼のもとに、殺人容疑をかけられたアラブ人モハメドが連行されてくる。

ダリュは彼を山を越えた町タンギーにモハメドを護送するように憲兵から命じられる。

断るダリュだが、憲兵はモハメドを置いていく。

翌日、ダリュの小学校はモハメドを殺そうとする村人の襲撃を受ける。

やむなくダリュはモハメドを連れ、裁判所のあるタンギーへ向かうことにする。

モハメドの命を狙う追っ手を巻きながらの護送は、途中解放ゲリラとの出会いでフランス正規軍の銃撃戦に巻き込まれてしまい、フランス正規軍に囚われる。

ダリュは実は元軍人の少佐だった。

正規軍の指揮官はダリュに敬意を表し、モハメドとともに解放する。

そんな道中の中、二人の間には何かが芽生え始める……。

『涙するまで、生きる』ぼくの感想です

よくわからないタイトルのこと

ぼくはまず、最初に『涙するまで、生きる』というタイトルに「むむむ…このわけわからなさは一体どういうえいがなんだ?…」と、うなり、そして「そんなわけわかんないタイトルつけるくらいだから、この映画は、傑作か駄作かどちらかに違いない」と、踏みました。

さて、タイトル原題を調べると、「Loin des hommes」=直訳なら「男たちから離れて」となります。

うむむ、、、

英語題名も「far from men」で、やっぱり「男たちから遠く」…ますますわからない。

多分、映画の内容踏まえて意訳するなら『追っ手からの逃亡』というニュアンスなのでは?と思うのですが…(違ってたらごめんなさい)

とにかく期待しました。謎めいた邦題と原題の匂いに。

アルジェリア独立というフランス映画なら避けて通りたい歴史テーマを取り上げている点でも、「これは多分、気合い入ってる映画だろう!」と、腕まくりして観てみました。

詩を読むように観る映画

『涙するまで、生きる』は、元軍人教師が、殺人を犯した男を、流れで裁判所のある町まで送り届ける…というシンプルなストーリーです。

演出はいたって静かです。実に淡々と物語が進みます、

それはドラマチックさをあえて排除したい、という監督の意図の表れだと思います。

その点が、観客を「よかった」と感じさせるか「つまらなかった」と思わせるかの分かれ道だと感じました。

ぼくは「人生の出来事にリアリティを求めるなら、こういう演出になるんだろうな」と、感じました。

ディゴ・モーテンセン演じる元軍人の教師ダリュの心情の現れ方もいたって静か。

ダリュは、小学校が襲撃を受けてしまい、要は仕方なく、やむなく、やりたくない護送することを決めます。

だからでしょう、ダリュはモハメドにほとんど声をかけることをしません。

逆に荒涼としたアルジェリアの大地や山並みを見事に捉えたカットが映し出されます。

それはダリュの心象を表現しています。

主人公の心の動きをどう表現するか?が映画では鍵の一つになると思いますが、『涙するまで、生きる』では、背景や景観描写にかなりのところを負わせています。

『涙するまで、生きる』を観る時に、ある意味、詩を読み解くような見方が必要なのかもしれません。

『涙するまで、生きる』はロードムービーだ。

A地点からB地点までの道中の起承転結を描くという手法は、ロードムービーの定番です。同時に冒険小説でも、ひとつのカタとして存在します。

『涙するまで、生きる』は静かな語り口の映画ですから、ロードムービーと感じないかもしれません。

ですが、ダリュの心の変わり方や、ほとんどセリフのないモハメドの、彼の決意を表すクライマックスを遠くから捉えるカメラは、「静かな日々の中にも、誰でもが岐路を抱えている。選ぶのはあなただ」というメッセージが見え隠れしています。

乾いた戦闘シーンに描き出されるリアル

監督の冷徹な意図は、フランス正規軍と反乱ゲリラの銃撃戦シーンにも現れています。

過度な演出は一切なく、弾が当たると、パタリと倒れる。その演技の付け方と演出は、やはり「リアルとはこういうものだ…」という監督のこだわりでしょう。

また、そのシーンで交戦相手のフランス正規軍を銃撃戦が終わるまで見せないという編集も乾いたリアル感を高めていました。

戦争映画のジャンルにも分けることができる『涙するまで、生きる』ですが、後半の戦闘シーンは極力感情を排除して、客観視に徹したカメラと編集は、これまでどんな戦争映画にもなかったと思います。

ハデな戦闘シーンが好きな映画ファンにはドン引き確実な、ホントあっさり薄口。でもリアリティあるとぼくは感じました。

エスカルゴと呼ばれていたダリュ

旅の終わり近く、ダリュは生粋のフランス人ではなく、スペイン系の出稼ぎ両親の血を引いていることを明かします。

そのなかで、「エスカルゴ」という蔑称で呼ばれていたとも明かします。

「家を背負ってあちこちに移動する奴ら」と呼ばれていたダリュが軍人退役後になぜ教師になったのか?

言葉にせずともそれは自明でしょう。

教師という仕事を選んだ理由が暗に示されていると感じました。

ダリュはモハメドを旅立たせる役割を得た

エスカルゴと呼ばれていたフランス人でもアラブ人でもない、宙に浮いたダリュ。

そんな彼だからこそ、モハメドを未来へ導けるんですね。

クライマックスのダリュのモハメドへのサジェスチョンには教師としての役割が見えました。

「左にいくか、右の道へ進むか」を指し示したダリュと、新しい未来を静かに選び取ったモハメドの歩き去る姿があまりにも静かで、逆に印象的でした。

『涙するまで、生きる』ぼくの評価は?

うーん、正直、よかった!とも、ひどかった!とも言い難いです。

途中のタンタンさに瞼が下がったりもして…。

でも映像は素晴らしいし、監督の意図も感じられるし、抑えた映画への美意識も滲んでるし…と、映画愛はバッチリ感じられるんですが、星をつけるなら星三つ🌟🌟🌟と半分です。

孤独を書いた詩を読んだような、そんな映画でしした。

星がひとつ半欠けた理由は、レダ・カテブ演じるモハメドの演技が説明的で鼻につきすぎ、ヴィゴ・モーテンセンの演技と噛み合っていない…と感じてしまったから。

ラストでディゴは実にいいこと言うんです。

ロードムービーのクライマックスに相応しい、新たな生き方を示すセリフです。

しかし、それを受け取るモハメドの姿に、ぼくはカタルシスを少しもこれっぽっちも得られなかったことによるマイナスです。

最後までモハメドの様子、表情、行動に気持ちを乗せることができませんでした。

…と減点理由を書きましたが、それはあくまでぼくの感じたこと。欠点だらけの映画ではないと思います。

先にも書きましたが、いい詩を読んだような気持ちになれる、異色の佳作映画だと思います。

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