映画『窓際のトットちゃん』評価:星四つ⭐️⭐️⭐️⭐️
アニメ映画『窓際のトットちゃん』を観ました。黒柳徹子が書いた同名書籍の映画化です(2023年作品)。当サイト運営人のぼく自身、アニメーター原画マンがキャリアの始まりで、今は水彩画で身を立てていることもあり、いろんな意味で興味深く観ることができました。
今回はそんな視点もちょっぴりだけ交えて『窓際のトットちゃん』を取り上げます。
また、ぼくは書籍や絵本の『窓際のトットちゃん』は読んでいません。なので、あくまでアニメ映画としての感想をレビューしたいと思います。
『窓ぎわのトットちゃん』予告編
『窓ぎわのトットちゃん』映画の解説
解説は映画.comから転載します。
黒柳徹子が自身の子ども時代をつづった世界的ベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」をアニメーション映画化。
主人公トットちゃん役で子役の大野りりあな、トモエ学園の校長・小林先生役で役所広司、バイオリン奏者であるトットちゃんのパパ役で小栗旬、ママ役で杏、担任の大石先生役で滝沢カレンが声の出演。「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」シリーズなどの国民的アニメを世に送り出してきたシンエイ動画がアニメーション制作を手がけ、「映画ドラえもん」シリーズの八鍬新之介が監督を務める。
監督 | 八鍬新之介 |
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脚本 | 八鍬新之介 鈴木洋介 |
原作 | 黒柳徹子 |
『窓ぎわのトットちゃん』映画のあらすじは?
トットちゃんは、お話好きな小学1年生。話し出したら止まらないうえに、好奇心のかたまりです。
あまりの落ち着きのなさに、小学校は退学。
そんなトットちゃんを自由が丘にあるトモエ学園が受け入れます。
校長の小林校長先生は、子どもたちの個性を重んじ、自由を与えます。
そんなトモエ学園で水を得た魚のように生き生きと遊び、学んでいくトットちゃん。
クラスの同級生の一人、小児麻痺のヤスアキくんと仲良くなったトットちゃんは、ヤスアキくんと共に過ごす時間が次第に大切なものとなっていきます。
そんなトットちゃんたちの日々に忍び寄ってくる影は、太平洋戦争です。
家族の暮らし、学校での生活に日に日に時代に戦争が暗い影を落としていきます…
ヤスアキくんとトットちゃんの忘れがたい思い出、校長先生の生徒と学校への愛情、そして家族との絆が描かれてゆきます。
映画『窓ぎわのトットちゃん』声優さんのこと
この映画、声優さんが見事!でした。
ぼくはあえて前情報なし、誰が声優をやっているか?も一切調べずに観ました。
映画が始まると同時にトットちゃんの声が世界をあっという間に作り上げ、トットちゃんを取り囲む大人たちの抑制の効いたセリフに感じ入っていました。
ちなみに声を担当したのは以下の俳優陣。…..納得でした。
役所広司、小栗旬、杏、滝沢カレン
トットちゃん役のオーディションで選ばれたという大野りりあな(7歳)の声にも劇にあっという間にのまれていました。
映画『窓ぎわのトットちゃん』感想・考察
トットちゃんと山本泰明(ヤスアキ)くん
映画『窓際のトットちゃん』の主人公はもちろんトットちゃんなんですが、ぼくは脇役で登場する小児麻痺の同級生ヤスアキくんこそが、物語の主人公なのではないか?とさえ思いました。
ヤスアキくんは、トットちゃんにとって、次第にかけがえのない存在となっていく過程は迫ってくるものがありました。
山本泰明くんは、片腕と片足が不自由なため、他の子供たちと同じように自由に動き回ることができません。しかし、彼は年齢以上に非常に賢く、そして優しい心の持ち主です。
トットちゃんは、ヤスアキくんとの出会いを通して、自ずと子供ながらに体の不自由な人に対する理解を深めていきます。
この描き方が全然いやらしくないんです。
子供って、神のように残酷でもあります。しかし、同時に神のように寛容でもあることを、トットちゃんとヤスアキくんのドラマは思い出させてくれました。
誰でもが幼い頃にヤスアキくんのような存在を意識したことがあると思います。
ぼく自身、子供の頃、クラスには「一言も喋れない同級生」や「小児麻痺の同級生」がいました。
今にして思うと幼少期にそんな彼らと机を隣にしていたことは大切な体験だったんだなと、今更ながら思った次第です。
幼年時代に「自分とは異なる人」「差別」「弱きもの」と接することって大切です。
大人になってからでは遅いんだと思います。
トットちゃんの映画はそんなことも再認識させてくれるものだと感じました。
映画では、ヤスアキくんの体の不自由さだけでなく、彼の内面の優しさや聡明さも丁寧に描かれていました。
例えば、トットちゃんに一冊の本「アンクル・トムの小屋」を貸してあげたりするシーンは、ヤスアキくんの他の子供達よりも群を抜いて知的な一面を印象付けています。
映画『窓際のトットちゃん』には、「弱いものが持つ秀でた部分を受け入れ、向き合う」大事さもまたメッセージとして込められているのです。
そのように考えを巡らすと、ヤスアキくんは、ただ「障害を持っているキャラクター」ではなく、物語の核となる存在、もしかするともう一人の主人公であるとさえ、ぼくは思わざるをえませんでした。
+ + +
ヤスアキくんの存在は、ぼくらに、「多様性を受け入れ、互いを尊重し合うことの大切さ」を教えてくれたように思います。
トットちゃんの独特な個性といい、ヤスアキくんの存在といい、いえ、トモエ学園の同級生すべてのオリジナリティがストーリーを織り上げていきます。
このアニメはトットちゃんの日常を通して、ぼくらに、日常で周りに居る人々との関係を振り向かせる力を持っていました。
トットちゃんと戦争
子ども目線で描かれた戦時下の日常
映画『窓際のトットちゃん』では、トットちゃんの学園生活だけでなく、第二次世界大戦という暗い影が徐々に忍び寄ってくる様子も丁寧に描かれているのが好印象でした。
では、戦争の影響が、劇中、どんなふうに描かれていたのか?ちょっとだけ解説です。
- お弁当の変化: 戦争が激化するにつれて、子どもたちの楽しみの一つ「お弁当」は、質素な弁当へと変わっていく。もちろんこれは、食糧不足や物資配給の影響。
- 絵の変化: 学園に貼ってある絵も、兵器など軍関係を描いた戦争賛美の絵へと変わっていく。
- 遊びの変化: 路地で遊ぶ子供たちの様子も、戦争が進むにつれ「リアル兵隊ごっこ」に変わっていく。
そんなふうに映画では、戦争が日常に暗い影を落とす現実を、トットちゃんの目を通して怖いほどしっかり描いています。
トットちゃんの心に映った戦時下の大人たちは「訳のわからない怖い存在」だったようにぼくは感じました。
「怖い」と書きましたが、ホラー系戦争映画系「怖い」とは意味が違いますので、ご安心ください。もちろん家族で見てほしい映画です。
トットちゃんの「雨に唄えば」
映画『窓ぎわのトットちゃん』で最もぼくの胸に迫ったシーンがあります。
雨音に気を止めたトットちゃんとヤスアキ君が、降り頻る雨の中、踊るシーンです。
もちろんこのシーンは名画『雨に唄えば』へのオマージュです。
ジーンケリーが雨の中タップをふみながら舞い踊る、あの名シーンに他ならないと思います。
では、あえて戦時下の暗い時代のそれも雨の場面に「踊り」をインサートしたのはなぜでしょうか?
踊りは人を笑顔にさせます。踊っている人も見ている人も、です。
「雨」を「戦争」と捉えるなら(一般的に雨は恵みの象徴ですが、この場合はあえて、「降りかかる戦争」とぼくは捉えた)、そんな時代にも笑顔と希望、幸福は降りかかることを忘れるな、というメッセージに取れたのです。
映画『窓ぎわのトットちゃん』の素晴らしいところは、しかし、そのハッピーメッセージだけで終わらないところです。
「ハッピー:希望」の対局である、「別れや崩壊、喪失」もまたしっかりと描かれています。
ぼくはその点がとてもとても好きです。
『窓ぎわのトットちゃん』アニメ映画へのぼくの評価
ぼくの評価は星四つ⭐️⭐️⭐️⭐️です。
本来、小説としてすでにあった世界をアニメーションで新たに再構築した『窓ぎわのトットちゃん」ですが、もはやカタとなった「ジャパニメーション特有キャラ」を抜け出したキャラクターの造形がぼくはとても好きでした。
もっとも、そのキャラが「気持ちわるい」と感じる方もいるようです。しかし、描かれた世界観を考えても、ぼくは作品の持つキャラ感で正解だったと思っています。特にトモエ学園の校長先生のキャラ造形はステキだと感じました。
また、アニメのなかに「劇中劇」としてトットちゃんの妄想シーンが「違った表現のアニメーション」として挟まれていた点も絶品素晴らしいと感じました。
とにかく、「時代を描き切った制作スタッフの力量」に頭が下がりました。
背景も良かったです。
最近流行のリアル系アニメ背景とは違って、画家の力を見ました。というのは、「誰が描いたんだろう?」と「作家性」を思わせるのです。そんな背景陣にも拍手でした。
素敵な映画をありがとうございました。
映画『窓ぎわのトットちゃん』配信先は?
以下のサービスで配信されています。
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