『2度目のはなればなれ』ネタバレ評価|あらすじ・感想考察〜原題『The Great Escaper』

ヒューマン・ハートフル

『2度目のはなればなれ』(イギリス映画)

今回取り上げる映画は、『2度目のはなればなれ』(2023年:イギリス映画)です。

とある理由で老人ホームを抜け出した退役軍人のヒューマンドラマ。実話です。

ノルマンディ上陸作戦D-Dayを生き残って、老人ホームで余生を送っている男とその妻は、70年前、ある秘密を持っていました。

残りわずかな時間を、ある約束を果たすためにD-Day70周年記念式典会場に向かいます。そんな1人の老人をめぐる、ヒューマンストーリーです。

引退宣言をした名優マイケル・ケインの演技は渋い。必見です。

 

キャスト:マイケル・ケイン グレンダ・ジャクソン ダニエル・ヴィタリス ローラ・マーカス ウィル・フレッチャー

『2度目のはなればなれ』どんな映画?〜予告編

どんな映画か?を予告編とメイキングでどうぞ。

『2度目のはなればなれ』あらすじです

あらすじは一部ネタバレを含みますので、映画をご覧になりたい方はスルーしてくださいね。

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物語は、イギリス南部・ドーバー海峡に面したブライトンの老人ホームで始まります。

主人公は、ホームで余生を過ごす90歳を越えるバーニーとレネ。

バーニーはかつて第二次世界大戦の激戦地ノルマンディ上陸作戦D-Dayを生き残った退役軍人です。

D-Day70周年の記念式典がフランスの彼の地で開催される2014年の夏。

式典を知ったバーニーは、式典出席の申し込み忘れていたのですが、レネの「行きなさい」という声に押され、1人、老人ホームを抜け出して式典会場を目指します。

フェリーに乗り、フランスの対岸を目指す彼は、船上で元空軍爆撃機を操縦していた元軍人の今は私立学校の校長をしている男に出会います。

男の好意で旅先のホテルに泊めてもらい、式典参加の手配までしてもらったバーニー。

しかし、当時の記憶はバーニーも男をも70年経った今もなお苦しめていました。

男は、弟がいた街を爆撃、バーニーも出撃を命じた戦車兵を目前で死なせていたのです。

一方、老人ホームではバーニーの失踪がばれ、上へ下への大騒ぎに。

もちろんレネは涼しい顔です。

警察はSNSでバーニーの行方を追い始めます。

そして、ノルマンディでの式典直前。

バーニーは過去の苦い体験に終止符を打とうと、同じく心に傷を持っている元空軍兵士の男を無理やり誘い、バイユーにある、とある場所へ向かうのでした、、、。

原題『The Great Escaper』と邦題のこと

実は、原題と邦題は全然違います。原題は『The Great Escaper』です

劇中、「2人が離ればなれになるのは、人生で2度目」ということがレネによって明かされ、そのレネのセリフが日本公開タイトルに使われているんですね。

「原題は『The Great Escaper』の方が良かったのでは?」という口コミもいくつかレビューにはみられますが、ぼくは逆に「うまい邦題だったなあ」と、観終わってから思いました。

だって、『The Great Escaper』って原題は、多分イギリス製作陣は、名作戦争映画『The Great Escape』(邦題『大脱走』)へのオマージュとして付けたのだと思いますし、実際にイギリスの新聞等で『The Great Escaper』という見出しが踊った背景には、『The Great Escape』邦題『大脱走』へのユーモアが込められていた、と思うのです。

イギリス人ならニヤッとするのでしょうけど、日本人で『大脱走』の原題が『The Great Escape』って知っている人って、映画オールドファンだけのように思うんですよね。。。

あえて『2度目のはなればなれ』とした配給会社の担当さんのセンスが、ぼくは好きです。

『2度目のはなればなれ』ぼくの感想

バーニーの立つ海の向こう

冒頭のシーンはブライトンの海辺から始まります。

実は、映画のテーマの発端になる「ノルマンディ上陸作戦」が強行されたのは、映される海辺の海峡を挟んで向こう岸なんです。

イギリス人にとっては常識ですが、日本人にとっては狭い海峡だってことはイマイチピンとこないかもしれません。

こんな距離感です。

Screenshot

バーニーがブライトンの海辺に立ち、過去に思いを馳せるシーンが冒頭な訳で、その距離感を知った上で見ると、立ちすくむバーニーの心のうちに入っていくことができるのではないでしょうか。

このシーンで立つ老いたマイケル・ケインの表情がたまらない。

文字通り人生の苦楽を味わって残りあとわずかとなった静かな心中を表しているように感じました。

マイケル・ケイン90歳のロードムービー

主人公の90歳のバーニーを演じているマイケル・ケインが素晴らしいと思ったのは、静けさだけではありません。

「90歳生きてきたからこそ、できること」が、暗に描かれています。

D-Day70周年記念式典参列の申し込みはできなかったにも関わらず、現地に向かうバーニーの物語は、一つのロードムービーとも感じました。

わずか二日間(多分)の出来事=バス停に立ち、フェリーに乗り、フランスの街で過ごす=が映画では語られるんですが、手押し車がなければ歩くこともおぼつかない90歳の老人にとっては、冒険です。

そして90歳を越えようとも、旅先での人間関係はもちろん生まれます。

その中でバーニーはどういう声を発していくのか?

これは聞きどころです。

マイケルケインがどのようにセリフを解釈して演技したのかは分かりません。

だけど、セリフの一言一言を聞くたびに、

「マイケルケインのような静かな表情で、こういうふうな言葉を言えるような老人になりたいな」

とぼくは思っていました。

若い戦傷軍人とバーニー

バーニーは、フェリーの船上で退役軍人をサポートする、一人の若い黒人戦傷軍人にあいます。

老退役軍人ばかりの物語の中で、彼の存在がストーリーに輝きを与えています。

バーニーたちがフランスの町のレストランで昔話をしているところに、その黒人戦傷軍人が乱入、ひと騒動巻き起こすのですが、彼を「言葉と表情」で押さえ込むバーニーの姿は、「老兵かくあるべし」を絵にしたようなイキを感じます。

また、男はのちに謝ってくるシーンがありますが、若者の取るアルアルな饒舌弁明を老人のバーニーが「それは言うな」と、制するのです。

このシーンでのやり取りもまた、記憶に刻まれただけでなく、我が身を思わず振り返ってしまう名シーンでした。

気づきをがっちりくれます。

登場人物たちは皆、戦争で心に深い傷を負って、その傷をなんとかしようともがいています。

そのもがき方が、観るぼくの心にじわじわと迫ってきました。

傷が深いだけ、物語も、深いです。

 

レネとバーニーの70年

「2度目のはなればなれ」という邦題はレネのセリフから取られています。

70年寄り添いつつ、2度のはなればなれを経験したレネがそう言うのです。

70年で2度。

もちろんその裏にはバーニーの「絶対に君を離さない」との誓いがあるわけです。

ネタバレですが、1回目の離れ離れは、ノルマンディ上陸作戦です。

そして、2度目も、やはり彼の行く先はノルマンディでした。

『2度目のはなればなれ』というタイトルには、「ノルマンディ」が、かかっているのです。

イギリス人にとって、ノルマンディ上陸作戦は様々な意味で、日本人が想像する以上の影を落としているんだな、と、ぼくはレネのセリフから受け取りました。

そしてこうも思いました。

「2度のノルマンディ行きは、レネからするとどちらも命懸け。彼女は老人ホームで飄々としていたけれど、バーニーに無事帰ってきてほしいとの願いの切なさはD-Dayとなんら変わりなかったんだ」

バーニーを「普通の人」として描いた妙味

SNSで足がつき、新聞一面で『The Great Escaper』と取り上げられ一躍時の人となってしまったバーニーが、老人ホームに帰り着く前に、ふと髪をかきあげるシーンがあります。

そしてそれに続くバーニーを演じているマイケルケインのチラッとみせる表情が、素敵なのです。

そのカットからは、あくまでこの映画の主人公は「普通の人」であるということ、そして「いつ何時でも舞い上がるな」いうメッセージを暗に感じました。

そのシーンだけ、人間のエゴへの批評がチラッと見えます。そんな演出、好きです。

91歳(存命中)の父がいる62歳のぼくの視点

正直、冒頭の老人ホームのシーンは、結構ヒキました。

というのも、ぼくには高齢91歳の父がいるから。

ふっと日常に引っ張り戻されてしまったような錯覚が、一瞬ですがありました。

でも、ドラマでバーニーとレネの会話が進むにつれて、そんなヒキはすっ飛んでいました。

 

決して高齢者介護の話ではありませんし、高齢社会をウンヌンするテーマでもありません。

あくまで2人の夫婦が、どう生きたか?の話なのです。

その生き様を説得するために、老人ホームのリアルな様子も(イギリスの、ですけど)描くために必要だったわけです。

ぼく自身、90歳まで生きる自信はありませんが、少なくともこの先、どんな爺さんになりたいか?の指針のようなものをもらえました。

ぼくと同じ世代にはもちろんのこと、老若男女広く知って観てほしい映画だと思いました。

『2度目のはなればなれ』ぼくの評価

誰もが間違いなく老いていきます。今、二十代であっても、40代であっても、ぼくのように60代なら、もうまもなく。

足腰がおぼつかないほど老いたときに、どういうふうに生きていたいか?を考えさせられました。

70年前の戦争を、こんな斬新な切り口で映画にしたことにも、心から脱帽でした。

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