実話映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』ネタバレ評価感想・あらすじ結末・考察|マンジャーレ・カンターレ・アモーレ!が響く傑作

戦争・歴史・時代

『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』評価:星4つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨

『潜水艦コマンダンテ誇り高き決断』は、2023年ヴェネツィア国際映画祭のオープニングを飾った映画で、ちなみに実話です。

第二次大戦中、イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニが沈めた、中立国ベルギーの貨物船乗組員を救助した…という、敵味方を越えた人道的エピソードを描いています。




映画に登場する潜水艦コマンダンテ・カッペリーニはCGではありません。実物大で作られた潜水艦のリアリティは特筆モノです。

潜水艦映画の傑作といえばドイツ映画の『Uボート』がありますが、『Uボート』はじめ過去の潜水艦映画とは全く違った、ある意味詩的といってもいいトーンの脚本演出、そして美しいカメラに、唸りました。

監督はエドアルド・デ・アンジェリス。主演のサルヴァトーレ艦長をピエルフランチェスコ・ファヴィーノが演じています。



『潜水艦コマンダンテ』どんな映画?〜予告編

『潜水艦コマンダンテ』あらすじは?

あらすじは公式サイトより転載します。

1940 年 10 月、イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは、イギリス軍への物資供給を断つために地中海からジブラルタル海峡を抜けて大西洋に向かっていた。その作戦行動中、船籍不明の貨物船に遭遇する。艦砲を装備し、戦争地帯で灯火管制をしての航行であったためこれを撃沈。だがそれは中立国であるはずのベルギー船籍の自衛武装を備えた貨物船カバロ号だった。“イタリア海軍一無謀な少佐”サルヴァトーレ・トーダロ艦長は「我々は敵船を容赦なく沈めるが、人間は助けよう」とその乗組員たちを救助し、彼らを最寄りの安全な港まで運んでいく決断を下す。だが狭い潜水艦の艦内に彼らを収容するスペースはない。しかもその決断は、潜水艦唯一の長所ともいえる敵に見つからないよう潜航するのをあきらめ、自らと部下たち、さらには艦を危険にさらすのを覚悟のうえで、無防備状態のままイギリス軍の支配海域を航行することに他ならなかった——。




『潜水艦コマンダンテ』あらすじ結末まで〜閲覧注意

以下は結末までのネタバレになりますので、映画を観る方はスルーしてください。

+ + +

救助されたベルギー船員の中の2人がイタリア人を許せず電源を破壊する。

サルバトーレ艦長はその2人の船員に罰を与えるが、そのことは逆にベルギー人とイタリア人の間にある種の信頼を生む。

食料がつきかけていた艦内だったが、サルバトーレ艦長はベルギー人にベルギーの名物料理を作ってくれ、と、提案する。

その料理はシンプルなポテトフライだった。

一方でイタリア人にとってポテトフライはなんと未知の食べ物だった。

わずかなポテトフライが館内に和やかな空気をもたらした。

コマンダンテは無事陸地に接岸。

ベルギー人たちを浜辺に下ろし、再び任務に戻っていくコマンダンテと乗組員たち。

その後、サルバトーレ艦長は陸に戻ることなく戦死したこと、そしてイタリア海軍潜水艦のほとんどが海の底に沈み帰らなかった事実がクレジットされ、エンドロールとなります。



『潜水艦コマンダンテ』感想考察

ただモノじゃないこの映画

潜水艦乗りにはなりたくないなあ、と、潜水艦モノを観終わるたびに思います。

投下される爆雷との戦い、潜航深度限界への逃避、海中に青黒く浮かび上がる艦体の描写と、潜水艦映画は見どころだらけです。でも、ワクワクハラハラドキドキしても安心してられるのは、映画だから、ですよね。

実際に「乗れ」と言われたら、ちょっとやだな。

だって、何か起こっても、潜水艦乗組員には、逃げ場がないですから。

そんな潜水艦モノに『潜水艦コマンダンテ』は新しいスタイルを打ち立てました。

冒頭のからやってくれます。

戦争映画なのですが、主人公の背景説明を間接的に描く静かな滑り出しです。

出撃に至る妻との時間が、丁寧に描かれます。

その映像のなんとアーティスティックなこと!

「えっ?これって戦争映画???」と、勘違いするほど美しい映像と絵画のような色調です。

ぼくはそんな冒頭でこう感じました。

「この映画、ただモノじゃないかも…」

で、その通り「ただモノじゃない」映画でした。

オープニングから出撃に至るまでの10分ほどは、後半への伏線も仕込まれていますから、ながら見してるとソンしますよ。



アーティスティックな映像

先にも書きましたが、映像が戦争映画のそれではありません。めちゃくちゃ美しいのが『潜水艦コマンダンテ』です。

冒頭の、サルヴァトーレ艦長の妻とのひと時の映像は、絵画といってもいいくらいです。室内シーンがほとんどですが、イタリアの光と影が美しすぎます。

また、この映画は潜水艦映画ですから潜航シーンももちろん出てくるわけですけれど、その海中シーンの美しさは、過去の数ある潜水艦映画を押しのけてダントツ一位!

海中に漂うクラゲの中を艦が進む映像は神秘的でさえあります。

また、潜航中に乗組員がハッチを開けて海中に「忍び出す」(としか言いようがない)シーンの海中表現も切ないほどに深く美しい色でした。

なんでそれほどまでに海中の神秘さにこだわったのでしょう?

ぼくが思うに、「戦争の持つ醜さ」に対して「母なる海の美しさ」というカウンターパンチを当てることで、観客をある真理へと導きたかったのではないかと思うのです。

それは、「自然界には、人間が戦争の言い訳にする善や悪は存在しない。ただ、在るが儘(まま)、だ」

…という真理です。

過去なかった『潜水艦コマンダンテ』にみる美しい海中シーンは、監督の哲学に基づいての表現でしょう。

イタリアって、ファッションや建築やカラーにおいても世界のトップランナー的存在ですよね。

『潜水艦コマンダンテ』はイタリア的美意識を見事に持ち込んだ映画だなあ、と、ぼくは感じました。

品格を兼ね備えた戦争映画だと思います。



絶品ニョッキを味わう

イタリアの価値観を表現した言葉に「マンジャーレ、カンターレ、アモーレ」があります。

訳せば「汝、食べ、歌い、そして愛せ」といった感じでしょうか。

『潜水艦コマンダンテ』は戦争映画ですが、見事に「マンジャーレ、カンターレ、アモーレ」が描かれています。さすがはイタリア映画!です。

マンジャーレは、艦内で厨房長が振る舞う食事シーンにとことん描かれますよ。

料理好き、もとい、食べること好きな人間ならニヤニヤしてしまいます。

ネタバレになりますが、トマトで煮込まれたニョッキが振る舞われるシーンは、絶品!

あんな美味しそうなニョッキは見たことがない。「誰かレシピを教えて」と聞いて回りたいほどです。

イタリア料理好きにはたまらないですね。

ベルギーの味は友情の味

そして、イタリア料理のニョッキに匹敵する、救助したベルギー料理にも脱帽です。

ネタバレになりますので映画を楽しみたい方はこの先はスルーしてください。

+ + +

食材も残りわずかとなり、しかも艦内の人口は倍にふくらんだコマンダンテ号。

艦内の空気は殺伐としてきます。そこでサルヴァトーレ艦長は、ベルギーの船員たちにこう問いかけます。

「君たちの国の代表的な料理は何だ?」

その言葉に、ベルギー人たちは異口同音に返します。

「ポテトフライだ!」

そう、日本ではフライドポテトと呼ばれる、ファーストフードのアレです。

それにしてもぼくが驚いたのは、イタリア人たちが「ポテトをフライしたものなんて食べたことがない」というセリフ!

イタリアでは当時はほぼポテトフライは食べられてなかったんですね。知らなかった〜。

さてそしてですよ、残りわずかなラードとジャガイモを使ってベルギー船員がポテトフライを作ります。皿の上にのり一本ずつ全員に回されるポテトフライスティックのなんと美味しそうなこと!

…いや、見た目は普通にどこにでもあるフライドポテトですよ。

でも、ベルギーに旅したことがある人は涙するんじゃないかな。

実際ぼくもベルギーに旅したことあるけど、日本のそれとはベツモノと感じましたよ。



人の道を貫く

「美味しそう!」ばかりではグルメ映画に勘違いされるので、話を映画のテーマ「人道」に戻しますね。

そう、ポテトフライのくだりに至るまで、艦内ではもちろんトラブルが起こります。

そんなトラブルを乗り越えて、敵、味方の壁が徐々に崩れていく。

艦長のセリフに「オレは海の男の流儀にのっとっているだけだ」…というようなセリフが出てきますが、もう名作冒険小説に出てくるようなシチュエーションとセリフですよ。

「ああ、いいなあ。そういうの…」と、ぼくはジンときていました。

+ + +

まるで冒険小説のようなストーリーですが、この映画は冒険小説ではなく実話なんですよね。

戦場というギリギリのところで自分を押さえ込む勇気といいましょうか、最強の仁義といいましょうか、そんな「人の道」のなんたるかを教えられたように思いました。



映画に込められた「マンジャーレ、カンターレ、アモーレ」

ニョッキのくだりで「マンジャーレ、カンターレ、アモーレ」の話をしましたけど、この映画の魅力はイタリア人気質がしっかりと表現されている点にあります。

係留されている潜水艦に向かう乗組員が艦長の決して上手いとはいえない歌声(多分、イタリアの軍歌)が徐々に合唱になっていくシーンや、蓄音機から流れる音楽に合わせて歌声が響くカットはまさにカンターレ(歌え)ですし、冒頭の艦長と妻とのシーンの連なりは、美しいアモーレ(愛せ)です。

戦争映画にイタリア人気質の「これ忘れたら、人としてあかんだろう」の「マンジャーレ、カンターレ、アモーレ」をガッチリと描いた『潜水艦コマンダンテ』。

エドアルド・デ・アンジェリス監督に脱帽、敬意を表したいです。



『潜水艦コマンダンテ』ぼくの評価は?

これまでにない戦争映画であり、潜水艦映画でした。

ぼくの評価は星:四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨です。

特に登場人物の心のうちの声をが声なきセリフとして流れる映画の作りに脱帽でした。

しかし、このナレーション的な「心の内の声」がダメな人はダメかもしれません…。ぼくは見事にツボでしたけど。

それとサブタイトルにくっついてた「誇り高き決断」はいらなかったと思います。言葉(失礼!)が映画の品位を下げてしまった気がしてなりません。

その点がちょっと気になって…という理由で✨半欠けとなりましたが、素晴らしい戦争映画でした。

いい映画をありがとうございました。



『潜水艦コマンダンテ』と日本

実は潜水艦コマンダンテ号は、この映画のストーリーののちに、実に数奇な運命を辿っています。

以下に公式サイトからその運命を転載しておきます。

数奇な運命をたどった
《イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニ》
イタリア海軍潜水艦コマンダンテ・カッペリーニは1939年に就役し第二次大戦に参加、戦局によってイタリア、ドイツ、日本と渡り歩き数奇な運命を辿った潜水艦である。1943年、ドイツ軍の指導下で極東に派遣される際、「アキラ3号」の仮称を付与された。直後にイタリアが降伏すると日本軍によって拿捕され、その後ドイツ軍に引き渡されて「UIT24」と改名。さらにドイツ降伏後には再び日本軍に接収され「伊号第五百三潜水艦」として特殊警備潜水艦となり、1945年の日本軍降伏後に連合国に接収され、紀伊水道で海没処分された。ドイツ軍下にあってもドイツの傀儡であるサロ政権側についたイタリア海軍将兵が乗艦し、日本軍下でも日本側についたイタリア人水兵が乗艦していた。彼らは戦後も日本に残り遺族は現在も日本で暮らしている。なお、本艦をモチーフにしたスペシャルテレビドラマが二宮和也主演で制作され、「潜水艦カッペリーニ号の冒険」として2022年正月に放映されて話題となった。




『潜水艦コマンダンテ』配信・レンタル先・DVD情報

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