ドイツ映画『希望の灯り』感想評価:星4つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨
『希望の灯り』(In den Gängen)は、2018年ドイツ映画です。 監督はトーマス・ステューバー。出演はフランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー他。
舞台は旧東ドイツ・ライプツィヒの近郊にある巨大なスーパーマーケット。主人公はそこで在庫管理係として働き始めた無口な青年。彼が同僚たちとの交流の中で前に進んでいく姿を描いています。
静かです。めちゃくちゃ静かです。でも、砂浜に染み込む寄せ波のように迫ってきます。
捨てられてゆくもの、新しいものに巻き込まれてゆく人生の哀感、切なさ、そんなあれこれをぎゅっと封じ込めたような作品です。
原作はクレメンス・マイヤーの短編小説 『通路にて』(新潮社刊『夜と灯りと』所収)。マイヤーが自ら脚本に参加。東西ドイツ統一前を旧懐するオスタルギーを基調とする作品と解説があります。オスタルギーって初めて聞きましたが、調べてみると『東ドイツ時代や当時の物品などを懐かしむことを意味する言葉。「Ost」と「Nostalgy」を組み合わせた造語。』とのことです。
『希望の灯り』あらすじ
あらすじはWikipediaから転載します
無口な青年クリスティアンは、旧東ドイツ・ライプツィヒ近郊にある巨大スーパーマーケットで在庫管理係として働くことになる。飲料セクションの責任者である中年男性ブルーノの指導の下、ブルーノの東ドイツ時代からの仕事仲間でもある同僚たちに囲まれ、真面目に働くクリスティアンはフォークリフトの運転資格を取るまでになり、職場にも自然になじんでいく。ブルーノとクリスティアンは父と息子のような関係となる。
一方、クリスティアンはスイーツセクションで働く年上の既婚女性マリオンに一目惚れする。ブルーノをはじめとする同僚たちに見守られながら、2人は徐々に距離を縮めていくが、マリオンは病気を理由に休職する。実はマリオンは夫のDVに苦しめられていたのである。クリスティアンはマリオンの家に見舞いに行き、鍵の開いていた扉から黙って家に入って彼女の生活ぶりを見るが、結局、彼女に会うことなく花束だけを置いて帰っていく。その後、マリオンは復職し、クリスティアンに花束の礼を言う。こうして再び2人の距離は近付く。
ある夜、仕事帰りにブルーノはクリスティアンを自宅に招く。ブルーノはクリスティアンに前科があることに気付いていたと言うが、それにこだわることはなく、かつて東ドイツ時代に長距離トラックの運転手だったことを懐かしむ言葉を漏らす。
ブルーノが首を吊って自殺する。周囲には妻と暮らしていると言っていたが、実は一人暮らしだったのである。同僚たちはショックに打ちひしがれる。クリスティアンはブルーノの家に行き、改めてブルーノの暮らしぶりを見る。ブルーノの葬儀には同僚たちが集まる。
クリスティアンはブルーノを継いで飲料セクションの責任者となる。そして、マリオンをはじめとする同僚たちといつも通りに仕事をこなしていく。
『希望の灯り』感想
普通の暮らしの中にあるダイヤ探し
『希望の灯り』…とっても静かな映画です。ドラマの起伏も大きくないし、派手な起承転結もありません。ドラマチックとは真逆と言ってもいい作りです。
最近、こういう「静かな映画」って、増えている気がしませんか?
最近ではヴィムベンダース『Perfect Days』なんてその最右翼。『わたしの叔父さん』もそうでした。『バグダッドカフェ』あたりからポツポツと出てきている気がしますが、でも、ぼく、不思議と惹きつけられるんです。こういう映画。
なぜなんでしょう?
多分ですけど、エンタメの中のドラマチックな展開が、もう逆に「ベタ」になってきて、人々は、エンタメにも普通の暮らしの中にある、ダイヤのような存在を探し求めているんじゃないかな、、、そんなふうに思ったりしてます。
冒頭演出の素晴らしさ
「冒頭ノックダウン」は佳作のキホンです。『希望の灯り』もしてやられました。
それはスーパーマーケットの店内、フォークリフトがワルツに合わせて動き回るカットです。
ずるい!!見事!!と、やられました。
冒頭舞台が、絵になるか?と言ったら決して絵になるとはいえない「巨大スーパーマーケットの売り場」ですよ。そこを音楽と合わせ技で掴んでしまうんです。
そんなオープニングカットを見た時点で「この映画、ラストまでヨイに違いない!」とぼくは思いました。(そしてその通りだったんですが)
『希望の灯り』、しっかりオープニングマジックを持ってる映画です。
登場人物キャラの陰影絶品
前編静かだと書きました。だけどね、主人公はじめ登場人物のキャラ立ちがすごいです。
主人公クリスティアン自身、無口ですし、彼に仕事を教えるブルーノも口数が多いわけじゃない。クリスッチアンが惚れる女性マリオンとの会話だってポツポツです。
でもキャラがグイグイ立ってくる。
これってどういうこと???ってなりますよね。
答えは演出の「間合い」。「間」がキャラをきわ立たせているんです。ぼくが映画見ててすごく気になる、、、好きだなあって映画は、ほぼその「間合い」が生きているなあ、、、と感じてます。
『希望の灯り』の間合い、最上級にヨイですよ。
クリスティアンとブルーノ=父と子
主人公クリスチアンとブルーノの関係が沁みてきます。
クリスチアンがどんなヤツなのか?は、刺青をアップで見せることでなんとなく観客にわからせつつ、仕事を教えるブルーノとの関係で人となりが浮かび上がってきます。
ブルーノとクリスチアンの間に垣間見えるのは、「父と子」という普遍的関係性です。(実際は他人なんだけど)キリスト教的な意味が二人の関係に込められているかどうかは、ぼくはわからないけれど、理想の父と子の関係がクリスチアンとブルーノに置き換えられているように感じました。
ネタバレになりますが、(映画見る方は以下は読まないでください)ブルーノがクリスチャンを家に誘うシーンがあります。特にブルーノは何かをクリスティアンに伝えるわけではりません。その静かな二人の向き合いは「無為」と言ってもいいくらいです。
「父と子の普遍的な無為なる姿勢」がそこに落とし込まれ、そしてブルーノの自死に至る。
ブルーノの死は、クリスティアンの「乗り越えるべき存在=父性」となっており、クリスティアンは父=ブルーノの死を乗り越えたからこそ「希望」を掴み取っていくラストへと向かっていけるのです。
クリスティアンとマリオン
主人公クリスティアンと既婚女性マリオンとの微妙な関係が全編ドラマに与えるのは「ゆらぎ」です。
ベタベタした二人の関係はほぼなく、でもクリスティアンはマリオンに惚れてしまう。『希望の灯り』では「二人はどうなっていくんだろう??」という「揺らぎ」が心地よいんです。
蝋燭の炎の揺らぎにも似た、「二人の関係の揺れ」をぼくはドラマから感じて、それがとても心地よかったのです。
ラストはぼくの好きな「解放型エンディング」です^_^
「どうなっていくのか、想像にお任せします」ってやつ。
そんな「解放型エンディング」苦手な人も多苦なってきたと聞きます。それ、残念です。
「解放型エンディング」も「映画の楽しみ方の一つ」なので、そんなラストに出会ったら、めちゃくちゃ自由に想像を羽ばたかせてほしいです。
東西ドイツとオスタルジー
ここでぼくなりに映画のキーワードになってる「東西ドイツ」の格差、、、というか、旅して感じた違い、、、について書いておきます。
ぼくはベルリンの壁が崩壊し東西ドイツが一つになった直後、1993年に現地を旅したことがあります。
当時、地下鉄に乗ったりしていると、服や雰囲気で「あ、この人、東ドイツの人だ、、、」って、なんかそんな匂いみたいなの、ありました。
この映画は、ぼくが旅した時から30年くらいたって作られた映画なんですが、主人公たちは東ドイツ人たちだったわけで、この30年を経験してきた人々なのです。
何を言いたいかといえば、彼らはドイツ人ですが、負の歴史を体感してきた東ドイツの生活を体験してきた人々なんです。
「長距離トラック運転手をやっていたころの暮らしが懐かしい」というブルーノのセリフが出てきます。
このセリフは、多分社会主義国家だった頃の東ドイツ時代へのノスタルジーですね。
舞台となる巨大スーパーマーケットは、東西統合以前はトラックターミナルだったということも、明かされます。
巨大スーパーマーケットのバックヤード(トラックの荷台から荷物が下ろせるよう高くなっている)に皆がよく集っています。
その場所は、遠く時代の向こうに去ってしまった「自分たちが主役で生きていた良き時代」へのメモリアルパレスなんだろうな、、、とぼくは感じていました。
この映画の舞台装置をそんな視点で読み解いてみると、二つの装置が見えてきます。
一つは、巨大スーパーマーケットの店内。それは「未来への灯台」とも言える装置です。
ならば、スーパーのバックヤード=旧トラックターミナル=は何になるのか??
「過去の記憶の地が人を癒す場所=オスタルジーな舞台」になるのだとぼく感じています。
『希望の灯り』ぼくの評価
無駄な言葉を一切排除した思い切った脚本、間合いを活かした演出。登場人物の陰影の強さから、記憶に強く刻まれる映画となりました。
ぼくの評価は星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨です。
『希望の灯り』スタッフ・キャスト
監督:トーマス・ステューバー 脚本:クレメンス・マイヤー トーマス・ステューバー
キャスト:(配役名:俳優名)
- クリスティアン: フランツ・ロゴフスキ – 在庫管理係として働き始めた無口な青年。27歳。
- マリオン: ザンドラ・ヒュラー – スイーツセクションで働く既婚女性。39歳。
- ブルーノ: ペーター・クルト – 飲料セクションの責任者。クリスティアンの上司。
- ルディ: アンドレアス・ロイポルト
- クラウス: ミヒャエル・シュペヒト– ハンドパレットトラックの操縦士。
- イリーナ: ラモナ・クンツェ=リプノウ
- ヴォルフガング: ヘニング・ペカー
- ノルベルト: シュテフェン・ショイマン
- ユルゲン: マティアス・ブレンナー
- ティノ: ゲルディ・ツィント
- ジョニー: サッシャ・ナタン
- マリオンの夫: クレメンス・マイヤー
以上Wikipediaより転載
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