『マスターアンドコマンダー』評価:星四つ⭐️⭐️⭐️⭐️
『マスター・アンド・コマンダー』(Master and Commander: The Far Side of the World)は、ナポレオンの時代の帆船海戦が繰り広げられる海洋冒険ドラマです。2003年、アメリカ映画。
パトリック・オブライアンの海洋冒険小説『オーブリー&マチュリンシリーズ』が原作。監督・脚本はピーター・ウィアー。主演:ラッセル・クロウ。アカデミー撮影賞、アカデミー音響効果賞を受賞しています。
この映画、普通の歴史時代アクションと考えてみては肩透かしくらうかも。この映画は「イギリス人が、帆船時代への憧憬を込めた交響曲であり、詩だと思います。絵作りからセリフまで、「舞台」を楽しむ姿勢で見ることをオススメします。
『Master and Commander』の意味は、18世紀末まで存在したイギリス海軍士官の役職であり、「海尉艦長」の意味。
『マスターアンドコマンダー』あらすじは?
1805年ーヨーロッバ制覇を狙うナポレオンの前に、イギリス海軍も多くの兵が犠牲となリ、幼い少年たちも士官候補生として帆船に乗船していた。
弱冠12 歳の士官候補生プレイクニー(マックス・バーキス)ら少年たちは、伝設的艦長として名を馳せるジャック・オーブリー(ラッセル・クロウ)率いる『サプライズ号』に乗り込む。
『サプライズ号』の使命は、フランス海軍の武装船アケロン号を拿捕するという、危険極まリない任務だった。
攻撃力で圧倒的優位に立つアケロン号と、荒れ狂う大海原を相手に、戦う術もまだ知らない少年士官候補生たちはひたすらにジャック・オーブリー艦長を信し、戦いに挑む…。
『マスターアンドコマンダー』あらすじネタバレラストまで
Wikipediaから一部改訂転載します。ネタバレになりますので、映画を観る方はスルーしてください。
アケロンとの最初の戦いではサプライズ側は甚大な被害を被る。
オーブリーは下士官たちの懐疑的な態度をものともせず、さらにアケロン号の追撃を続けるが、嵐、それに続く無風状態などの気候によるダメージは船員たちの士気を低下させていく。
また、オーブリーの部下に対する態度は、無二の親友であり、サプライズ号の医者、そして博物学者でもあるマチュリンとの間に、激しい口論を引き起こす。
こうした様々な不利な状況を乗り越え、オーブリー以下サプライズ号の乗組員は知略を活かしアケロンと戦い勝利する。
『マスターアンドコマンダー』はつまらない?おもしろい?感想考察レビュー
海洋冒険アドベンチャーのキモは英国スピリッツ
先にも書きましたが、この映画をたとえば『グラディエーター』のような「歴史スペクタクル」を見るような「普通」の鑑賞をすると、「なんだこりゃ!?」と戸惑ってしまう映画かもしれません。
脚本からして、何本かの海洋冒険小説を合わせての一本にしていますので、ストーリーの進み方もちひとクセがあります。
それ以上に、この映画には、ある「不文律」が潜んでいます。
その不文律をおさえるかどうかが、『マスター・アンド・コマンダー』を『ヨイ!』と感じるか「つまらない」と感じるかの分かれ道になると思います。
ちなみに『マスター・アンド・コマンダー』には原作があります。「イギリスで出版された本」です。実は、「イギリス生まれ」という点に、この映画のクセの一つは潜んでいるのです。
「英国海洋冒険小説」として観る『マスター・アンド・コマンダー』
イギリスには「英国海洋冒険小説」と言われる、伝統的な文学ジャンルがあります。
1805年、トラファルガーの海戦でホレーショ・ネルソン提督率いるイギリス海軍が、ナポレオンのフランス・スペイン連合艦隊を、スペインのトラファルガー岬沖合で破りました。それはナポレオン戦争最大の海戦です。
イギリスはトラファルガーの海戦の勝利でナポレオンの英本土上陸の野望を砕きました。その勝利は、帆船戦列艦を指揮した海軍艦長や司令官、士官候補生へのリスペクトとなっています。
そのリスペクトが、「不屈スピリッツ」まで昇華し、イギリス人の心のなかに根付き、その結果、文学ジャンルとして確固とした地位を築いているようにぼくには見えます。
イギリスを旅するとわかるのですが、イギリスの書店には『海の男ホーンブロワーシリーズ』や『海の勇士ボライソーシリーズ』といった海洋帆船文学が目白押しなんですね。(日本でも翻訳出版されています)
そんなふうに「海の男の成長物語」が普通に根付いている文化がイギリスです。
ネルソン提督がトラファルガーの海戦火蓋が切られる寸前、艦隊司令官たちに送った「英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」は名文句として今に刻まれています。
まさに英国人の気質が表れていると思う名言です。
この映画を楽しむポイントは、ソコにあります。
「英国人の海の男たちへの憧れ」にどっぷりと浸かれるかどうか??がこの映画鑑賞のポイントです。
そこポイントを言葉に置き換えるなら、「あきらめない」」「責任」「不屈」「不退転」「自己犠牲」「王への敬意」といったところでしょうか。
『マスターアンドコマンダー」は『海の交響詩』
この映画への率直な感想を一言で言い表すなら、こう言います。
「この映画は交響詩だ」
この言葉につきます。
帆船が海をすすむ絵作りの巧みさは非常に詩的な美しさをたたえています。
また、船乗りたちが、狭い帆船上で歌を歌すシーンなども、船乗りたちの祖国への切ない思いを詩的に表現し、まさに絵画的詩的なモチーフのつづらおりです。
まるで演劇の一コマのようにも見える絵作りは、ポエティックな映像訴求をさらに盛り上げています。
『マスターアンドコマンダー』は、冒険活劇ではないのです。
海洋国家イギリスが抱く、海原の憧憬、帆船時代への憧れを「交響詩」として映像に封じ込めた映画なのだと、ぼくは感じました。
戦闘・海戦シーンは大迫力
詩的だ、とかイギリス気質のことばかり触れていると、「んじゃ、フツーの人、楽しめないのでは?」と思われるかもしれませんが、戦闘シーンのリアルティはすごいです。
いわゆる「歴史戦争スペクタクルジャンル」で、この時代=ナポレオンとの海の戦い=帆船バトルをテーマにした映画って、あまり思い浮かびません。
そうなんです。戦闘シーンのリアリティ、すごいです。
帆船が向かい合っての砲撃戦、砲弾が着弾し吹っ飛ぶ船内の修羅場や、船上での海兵隊のバトルシーンまで、実にこだわり抜いたリアリティを感じます。
この映画の特徴の一つに「緩急」をうまく操っている感じがあります。
ネタバレになりますが、海戦といっても大回線ではありません。一隻と一隻の一対バトルがメインです。
そのためにも物語の緩急が必要だったと思いますし、その緩急が見事に仕組まれた映画が『マスターアンドコマンダー」なのです。
艦長と少年士官候補生、そして軍医
物語には子供の士官候補生が重要な脇役として登場します。年齢にして12歳かそこらです。そんな若い士官候補生がいたことは、歴史的事実です。
『マスターアンドコマンダー』の人間ドラマの縦糸は、『頼りになるウェブリー艦長と子供達の関係』になります。これはドラマの中で大事な「師匠と弟子」関係ですね。
僕らはこの映画を『ウェブリー艦長のストーリー、』と疑わずに見始めるわけですが、実は、年端もいかない少年たちの成長ドラマが、主題としてあり、土台を作っているのです。このストーリーの礎石、実にうまい、憎いです。
もう一方で『悩めるウェブリー』もしっかり存在しています。(イギリス冒険小説の素晴らしいところは、主人公が悩み苦しむ、、てとこ)
その悩み苦しみは、共に乗船している親友の軍医との関係で描き出されます。
「はい、この人、悩んでますよ〜〜」というベタなセリフは用いません。親友軍医との文化的な感覚のズレや、軍人ゆえの約束の反故の仕方。反故にした約束への後悔の表現、そして行動にじわっと滲ませます。
そんなふうに、ぼくはこの映画を見ていました。
そして、「わかるひとわかってもらえばいいんだ」という、潔ささえを感じました。
この映画は、「海をいつまでも眺めていられる大人のために作られた海戦映画」なのです。
『マスターアンドコマンダー』ぼくの評価は
ぼくの評価は星四つ⭐️⭐️⭐️⭐️です。
いい映画をありがとうございました。
『マスターアンドコマンダー』スタッフ・キャスト
監督:ピーター・ウィアー 脚本:ピーター・ウィアー ジョン・コリー
- ジャック・オーブリー艦長 – ラッセル・クロウ(牛山茂)
- スティーブン・マチュリン軍医 – ポール・ベタニー(後藤敦)
- トーマス・プリングス副長 – ジェームズ・ダーシー(佐久田修)
- ウィリアム・モウェット – エドワード・ウッドオール(遠藤純一)
- ウィリアム・ブレイクニー士官候補生 – マックス・パーキス(小林優子)
- ピーター・カラミー士官候補生 – マックス・ベニッツ(小野塚貴志)
- バレット・ボンデン水兵 – ビリー・ボイド(大久保利洋)
- ホロム士官候補生 – リー・イングルビー(中村俊洋)
- ジョン・アレン航海長 – ロバート・パフ(宝亀克寿)
- デイヴィーズ – パトリック・ギャラガー(広瀬正志)
- キリック – デヴィッド・スレルフォール(中博史)
- ラム – トニー・ドーラン(竹田雅則)
『マスターアンドコマンダー』トレイラー
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