『キャタピラー』ネタバレあらすじ・感想評価レビュー|食べて寝て・ポーズ愛国心をずばり刺し貫いた戦争映画

戦争・歴史・時代

『キャタピラー』評価星4つ〜異形の傑作戦争映画

太平洋戦争中国戦線で負傷し四肢を失い、軍神として崇め祀られる黒川久蔵とその妻の物語。監督は若松孝二。脚本は黒沢久子・出口出。出演寺島しのぶ・大西信満。

『ジョニーは戦場へ行った』の日本版的作品(違うけど)。

寒村の一組の夫婦の姿を通して、戦争の愚かさと静かに迫る残酷さを表現しています。

2010年・ベルリン国際映画祭コンペティション部門で寺島しのぶが最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞しています。

『キャタピラー』あらすじは?

あらすじはWikipediaから転載します。ネタバレを含みますので、映画を観る方は閲覧禁止、スルーしてください。

1940年、とある農村に住む青年、黒川久蔵は日中戦争の激化に伴い徴兵を受け、戦地へと赴いた。それから4年後、久蔵は頭部に深い火傷を負い、四肢を失った姿で村に帰還する。戦線で爆弾の爆発に巻き込まれた彼は、声帯を傷つけて話すこともできない上、耳もほとんど聴こえない状態になっていた。「不死身の兵士」と新聞に書き立てられ、少尉にまで昇進した久蔵を村人は「軍神様」と呼び崇め称える。しかし親戚たちは彼の変わり果てた姿に絶望し、妻であるシゲ子に世話を全て押し付けてしまう。

シゲ子は無理心中を図り久蔵を殺そうとするが思い留まり、軍神の妻として献身的に尽くすようになる。戦地に赴く前は表向き好青年として通っていた久蔵は、実は欲深く暴力的な性格の男だった。彼は体に残された知覚で意思を伝え、美味な食事、自身の名誉の誇示、そして性行為をシゲ子に要求し続けていく。

1945年、久蔵はたびたび発作的な錯乱に見舞われるようになり、次第に勃起不全になっていった。彼は戦地で炎に焼かれる屋敷内で中国人の少女を強姦、虐殺した記憶に苛まれていたのだった。それを知らないシゲ子は、かつて暴力によって自分を支配していた夫への憎悪や怒りを爆発させ、気性が激しく性欲が旺盛な本性を露わにする。四肢を失い一切の抵抗ができない久蔵は、シゲ子のその姿が過去の自分の姿と重なるようになり、日に日に正気を失っていく。

夏になり、畑仕事をしているシゲ子の元へ村人の間では変人として敬遠されている男・クマが現れ日本が降伏したと伝える。戦争を忌み嫌っていたクマは「戦争が終わった。万歳」と叫び、シゲ子も晴れ晴れとした表情でそれに続く。2人が喜びの声を上げるそのすぐ傍で、家から芋虫のように這い出した久蔵は庭の池へと向かっていた。

食べて寝て、芋虫と軍神と

食べて寝て、排泄し、性行する。映画ではひたすらにその行為を繰り返し見せつけられます。

繰り返し見ているうちに、四肢と声をもがれた芋虫のような軍神久蔵の姿は、戦争の抱える様々な負の偶像のように見えてきます。

リヤカーに乗せられ、小さな村を妻に引きまわされ、軍神様と手を合わせられる(表向きは)その姿は、愚かな戦争の権化です。

しかし、そのロケされている現場は、どこまでも絵になるのどかな茅葺き集落。

そんな景観の中をリヤカーで引き回される姿は、ある意味、戦地で人の道に外れた久蔵が市中引き回し磔の犯罪人に等しい刑罰を与えられているようにも、ぼくには見えました。

また、映画でこれでもかと見せつけられるのは、太平洋戦争時の国民皆兵・ナンセンス極まりない、銃後のリアルな時代表現です。

あまりのナンセンスさに吐き気がするほどでしたが、それは映画製作陣の意図するところだったと思います。見事です。

食べて寝て、やるせなさと愛国ポーズの虚しさ

今でもどこでも、「ポーズ」って時代を作っていく怪物です。それが「時代の空気」と合わさったら怖いものなしです。

今から80年前の太平洋戦争時、映画で描かれた、軍人たちを送り出す「万歳三唱」。今にみると甚だ笑っちゃうような「イケイケ」です。

しかしその「イケイケ」は、日本のどんな田舎でも見られた風景であり、映画の中で旗を振っていた子供達や母親、妻たちは。、僕らの両親祖父母にあたります。

そう、彼らが時代の空気の中で当たり前にやっていたことなんです。

今、隣にそんな両親祖父母がいるならば、ぜひ聞いてみてほしいです。

彼らこそ、喜劇のような1940年代の生き証人であり、『キャタピラー』と深い関係性を持つリアルな肉体なのです。

彼らがどんなカタチで愛国心を発していたのか?

映画に描かれるクレイジーな農村風景の生き証人は、意外にもすぐそばにいる、、、ということを忘れてはなりません。

『キャタピラー』ぼくの評価は

ぼくの評価は星四つです。決して好きな映画じゃないけど。。。

寺島しのぶってすごい女優さんだな、と、改めて思いました。卵を久蔵の顔に叩きつけ潰し、泣き叫ぶシーンは、もう圧巻です。

「食べて寝て」という映画の根底に横たわるをワードを見事にメタモルフォーゼさせた傑作シーンですね。

好き嫌いは抜きにして、時代と見る人の胸を鋭い槍のようにつらぬく戦争映画の佳作だと思います。

いい映画をありがとうございました。

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