絶賛を博した映画NETFLIXプレゼンツの『6日間』。その裏に隠されたストーリーを紐解きながら、非日常な歴史の裏側をこの映画はどのように表現したか?を読みときます。
世界を震撼させた、実際のロンドン・イラン大使館占拠事件の真実。映画は、巧みなストーリーテリングと素晴らしいキャストの演技で、『6日間』全編に命を吹き込んでいます。
事件を再現するために行われた綿密なリサーチと細部へのこだわりが良質ムービーを産みました。テロリストとの交渉の裏側を切り取った映画です。
1980年、ロンドンでイラク大使館が武器を持ったアラブ人テロリストに占拠された事件がありました。事実です。当時はまだテロ対策が徹底されておらず、対テロ部隊が強化される前の事件です。
この映画は、人質救出と制圧までを、主に警察とSAS部隊の目線で描かれたファクトベースムービーです。
主演は『リトルダンサー』『スノーピアサー』のジェイミー・ベル。『ロビン・フッド』『ウェイバック –脱出6500km-』のマーク・ストロング他。ドキュメントゆえ胃縮小必至ムービーのレビューです。
『6日間』映画の感想レビュー
~時系列はリアルタイム型ノンフィクション~
『6日間』の冒頭は、いきなり大使館占拠のシーンです。掴みはOKどころの話ではありません。
事実ベースの映画では、いくつかのパターン=カタみたいなのがありますよね。
たとえば、ファクトが起こるずっと前=きっかけとなった過去から積み重ねるタイプもあれば、事件と過去を行ったり来たりするタイムスリップ交錯型もあります。
けど、この映画はいきなり直球バージョンです。過去を描いたりせず、事件に集中しています。ドラマの時間経過、そのまんま進みます。
なので、6日間の人質占拠事件を、丸ごと体験することになります。
それも5つの視点で。
『6日間』感想レビュー~5つの視点
1つ目の視点。テロリストの視点です。
『6日間』では、テロリストにもしっかりとした主張があり、ただの悪として捉えていません。そのことがドラマに厚みをくわえています。
冒頭、テロリストたちが道路を駆け抜けて占拠するシーンはあえてドラマチックな演出をせずに淡々と進みます。ポイント高しです。
また警察の交渉人マックス・ヴァーノン主任警部とやりとりするテロリストのリーダー、サリムがとっても人間臭く描かれていて、勧善懲悪にしていないところ、よかったです。
2つ目の視点。SAS(陸軍特殊部隊)の視点。
事実ベースの『6日間』です。突入か中止かを繰り返すSASの緊張感がハンパないです。1980年当時、今ほど対テロ訓練が徹底されていなかったこともわかります。
また、突入のために急遽訓練、何度もシミュレーションを繰り返すくだりも、主人公の一人、ラスティ・ファーミン上等兵 – (ジェイミー・ベル)を通してていねいに描かれます。
おまけにカメラの緩急自在な動きが絶品。
ジェイミーベル、いい役者さんにどんどんなっていってるんだなあ、と、ファン目線で嬉しくなりました。
3つ目の視点。警察=交渉人の視点。
この映画『6日間』の最高の盛り上げ役は、なんといっても交渉人マックス・ヴァーノン主任警部。
一介の警部が交渉人を任されることになりますが、その交渉のやり取りは、まるでライブのような緊張感をバリバリに出しています。
電話でテロリストと話をするシーンは、一つ一つの会話を「どう答えるんだろう?」と考えながら耳をそばだててしまいます。
この事件後、アメリカFBIに出向し交渉を学ぶことになったということがエンドクレジットで明かされますが、人となりを感じる交渉術でした。実話と思って見ると、交渉人は精神的タフさが何より必要なんだろうな、ぼくにはできないな…と、感じ入ってしまうのでした。
4つ目の視点。政府首脳陣の視点。
『6日間』の視点、四つ目は、政府や軍、警察のトップ。彼らが一室に集まり、議論します。占拠現場で起こっていることと、政治的な駆け引きが必要な政治現場で起こっていることを同時に取り上げたことが、絶妙な歯車となって映画をまわしていきます。
5つ目の視点。ジャーナリスト=BBCの視点。
『6日間』で描かれる人質の中に、BBCの職員が一人いました。ウソのようなホントの話しですが、事実は小説より奇なりとはまさにだと思います。
そのためBBCは早く事件を知ることになります。
報道の現場も冷静に見せることで、『6日間』は偏りのないドラマとなった気がしました。
(もっとも、「そこ、報道したらマズイだろ?」と、ついつい警察やSAS側に立ってしまうのです。ジャーナリストの持つ必要悪みたいなものも、じわっと滲ませていました)
『6日間』~ロンドンリアリティ~
80年を再現した美術スタッフ
80年というと、今から40年も前のことです。映画ですから、当然ながらしっかり当時を再現しています。
映画の場合、そういった時代セッティングは美術が担当するわけです。
たとえば町を走るクルマにしても、着ている服も1980年にこだわり、作り上げられています。
ヨーロッパって古いものがしっかり残っているので、そんな関係ないんじゃない??とつい思っちゃいますが、「空気」って時代で違いますよね。電話の音や壁掛け時計の数字のフォントとか。その空気がよく出ていたと思います。
クルマ好きが観たならば、スクリーンは旧車オンパレード。見事に80年代です。そんな見方をしても罪はないです。旧型のランドローバーにぼくはニヤニヤしていました。
また、『6日間』ではちょっとした部分にも英国らしさをきちっと出しています。
イギリス人とリンゴ
『6日間』のちょっとしたこだわり。それはたとえば、イギリス人は町なかの公園などで、よくリンゴをガリッと丸かじりしています。日本ではあまりしませんね。コックスと呼ばれる小さめのリンゴです。
『6日間』でも、チラッとですが、SAS隊員がコックスを丸かじりするカットが出てきます。英国好きならたまらんシーンでしょう。(少なくともぼくはたまらんかった)
テロリストへのご飯の差し入れシーンで小物として使われるのは、たぶん中華料理のテイクアゥエイ(イギリスではテイクアウトと言わずテイクアゥエイと呼びます)だと思われます。チラッとですが、テイクアゥエイ持ち帰り定番のアルミパッケージが見えるのです。
どこまでも、しっかりイギリスの匂いプンプンムービーです。
映画『6日間』で登場するSASってどんな部隊か、ちょっと解説
ジェイミー・ベル扮する上等兵ら突入する彼らは、SASと呼ばれていますが、Special Air Serviceの略です。
airとあるので空軍かな?と思われがちですが、そうじゃありません。所属は陸軍。
発足は第二次世界大戦。
ドイツとイギリスの主戦場にアフリカ戦線がありました。
そのアフリカで、敵ドイツ軍陣地後方に空から落下傘で降下、後方撹乱や破壊工作を主な任務にしていました。
それこそターバンを巻き、現地人と間違いそうな服でデザートシボレーやローバーに乗り、敵地奥深くに潜入していった、生え抜きの兵士たちです。
任務はドイツ軍の補給路を絶ったり、陸上から飛行場を攻撃したり、撹乱作戦をしかけたりと、超絶過酷な任務だったようです。
1941年にデイヴィッド・スターリング少佐が創設。
任務地が砂漠です。何も持たずにどうやって砂漠で生き抜くか?
そんなサバイバルスキルに長けた人材だけがSASの部隊兵士として採用されたと聞きます。
1945年の大戦後、SASは一度解体されますが、1952年に復活します。
ミュンヘンオリンピックテロ事件を機に、特殊部隊の必要性が問われ、各国はスペシャルフォースとして創設しますが、イギリスにおいて、この映画の事件で再び脚光を浴びました。
映画に登場する彼らは、そんなスペシャリストソルジャーなんですね。
(写真は、アフリカ戦線のSAS.ウィキペディアより転載)
『6日間』映画のキャスト紹介
以下、『6日間』のキャストをWikipediaから転載します。(カッコ内は吹き替え声優です)
ラスティ・ファーミン上等兵 – ジェイミー・ベル(川中子雅人):SAS(英国特殊空挺部隊)のリーダー
マックス・ヴァーノン主任警部 – マーク・ストロング(加藤亮夫):ロンドン警視庁交渉班
ケイト・エイディ/Kate Adie – アビー・コーニッシュ(斎藤恵理):第一報を入れたBBCリポーター
ジョン・デロウ/John Dellow – マーティン・ショウ:ロンドン警視庁副総監補。
サリム – ベン・ターナー(亀田佳明):アラビスタン解放民主革命戦線のメンバーで、占拠グループのリーダー
ロイ – イーモン・エリオット
ファイサル – Aymen Hamdouchi(四宮豪)
レイ – アンドリュー・グレインガー(四宮豪)
ジョン・マッカリース/John McAleese – コリン・ガーリック:SAS隊員。イギリス陸軍上等兵。
MI6スポークスマン – Ronan Vibert
ジミー – ティム・ダウニー:事件を取材するジャーナリスト
トム・ロヴェット – マシュー・サンダーランド:
スナッパー – ライアン・オケイン
Mustapha Karkouti – Michael Denkha:シリア人ジャーナリスト。人質の一人。
チョッパー3 – ジョエル・ベケット:
ビル – マーティン・ハンコック:BBCカメラマン
警察スポークスマン – ジョン・ヘンショウ
ウィリアム・ホワイトロウ内務大臣 – ティム・ピゴット=スミス:
マイケル・ローズ中佐 – ロバート・ポータル:イギリス陸軍SASの指揮官
トニー・クラッブ – ジョン・ラム
男性翻訳家 – ジェフ・ススターマン
トミー・パーマー – ジャレッド・ターナー
見終わって思いました。「いい映画、見たな」。
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