ネタバレレビュー『ウェイバック -脱出6500km-』評価:2本の足に星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨
今回レビューする映画は『ウェイバック -脱出6500km-』です。「第二次世界大戦時の実話」として書かれた書籍をベースに作られたラーゲリ=収容所脱出モノです。
ラーゲリ脱出ムービーは他にもたくさんありますが、この映画の特筆すべきは、逃避行の距離の長さと大自然の変化と過酷さでしょう。
ソ連シベリア収容所から逃亡した主人公たちのルートは、なんと「シベリア→バイカル湖→モンゴル→チベット→インド」ですよ。方法はひたすらに2本の足による、徒歩。
ぼくはこの映画の原作となった「『脱出記 シベリアからインドまで歩いた男たち』 (ロナルドダウニング・著/海津正彦 訳)を読んでいたので、この映画を観ました。
果たして映画は、、、?ちなみに『ナショナルジオグラフィック・エンタティメント』がオープニングクレジットに堂々と流れます。ラーゲリ系戦争映画というよりもネイチャーアドベンチャームービーといってもいいかもしれません。
『ウェイバック –脱出6500km-』どんな映画?
監督がオススメ監督です。勝手に映画界の良心の一人と勝手に思っているピーター・ウィアーです。 有名なところでは『ジョン・ブック目撃者』『トゥルーマン・ショー』『マスターアンドコマンダー』。メル・ギブソンがマッドマックスで売り込み中だった若い時分にシッカリ作品選んで出演していた小さな傑作『誓い』もピーター・ウィアーです。
配役もぼくの(あくまでぼくの)個人的スキ!俳優がズラッとそろい踏みです。
エスケープするメンバーを演じている俳優を書いているだけでもワクワクしてくる俳優さんたちです。
では、紹介行きますよ。エド・ハリス、コリン・ファレル、マーク・ストロング、ジェム・スタージェス、シアーシャ・ローナン、グスタフ・スカルスガルドですよ。グスタフ・スカルスガルドはこれからどんどん出てくる若手かと思います。(ステラン・スカルスガルドの息子さんです)
歳を取れば取るほど渋みが増してくるエド・ハリス。クセモノ演じさせたら天下一品のコリン・ファレル。立ってるだけで絵になる、声までもが神がかってるマーク・ストロング。そしてそしてただ単に運営人のボクが個人的に大ファンであるアイルランド希望の星:シアーシャ・ローナンが紅一点を決めています。
これは、丸いチーズはどこを食べても美味しいように、どこから切り取っても、渋カッコいい映画になるに決まってるじゃないか、という布陣です。
で、どうだったかを早く話せ、ですよね。
はい、僕はめちゃくちゃ面白かったです。
この映画はどんな人にオススメか?
こんな方には満点おすすめです。
◻︎上述俳優が好き(←ボク)◻︎脱出ドラマが好き(←ボク) ◻︎第二次世界大戦の時代好き(←ボク) ◻︎サバイバル系が好き ◻︎あきらめない系が好き(←ボク) ◻︎テント寝袋ナイフ、携帯ストーブはすぐに出せる ◻︎ナショナルジオグラフィックを定期購読している(あるいはしていた)(←ボク)
『ウェイバック]は家族でも見れる??
家族で見るなら、高校以上はノープロブレムかと思います。
中学以下のお子さんと見るときは、映画の歴史バックグラウンドを簡単に説明してあげてください。世界地図(Googleマップでもいいやね、実際の地名がキーワードになりますから)を用意してあげると、お子さんの歴史、自然、世界への知的好奇心をぐわーっと(たぶん)高めてくれる映画になると思います。(なお、お子さんの将来の保証は致しません。が、喜んでみたお子さんは、冒険を好み、グランピングに背を向け 質素なテント生活を楽しむ、、そんな面白愉快なネイティブライフを歩まれるのではないかと思います)
『ウェイバック –脱出6500km-』は事実かフィクションか?
実話ということに関して、あまりにアンビリバブルなロングウォーク逃避行に「事実かフィクションか?」という点で、今もなお、さまざまな議論があるようです。
書籍ではなんと、雪男らしき未確認生物との遭遇も書かれているんですよ(!)。その描写はもちろん映画では削られています。
僕が本を読んだ時、本の中での雪男遭遇エピソードは、ウソー読者を引っ張るためのフェイクにしては自然すぎる淡々感がありました。(ここは僕の感じたままね)
雪男うんぬんはさておいて、監督自らが「この映画はフィクションとして脚本を書いた」と述べています。映画は映画として楽しむのが吉、ですね。
『ウェイバック –脱出6500km-』あらすじです
まずは『ウェイバック -脱出6500km-』のあらすじを以下に簡単に紹介しておきます。ネタバレありです。見たい方はスルーして映画をお楽しみください。
時は、第二次世界大戦下。ポーランドの東半分を占領していたソ連によって、ポーランド人兵士ヤヌシュ(ジム・スタージェス)は無実の罪で捕われ、シベリアの強制労働収容所へと送られる。
収容所内では命はタバコより軽い存在だ。想像を絶する過酷な冬の寒さと飢えが収容された者たちの命を次々奪う。
ヤヌシュはそこで刑期の長いロシア人受刑者・俳優カバロフ (マーク・ストロング) と知り合い、脱走を手引きされる。
脱出計画を練り上げたヤヌシュは、同じく捕虜のアメリカ人技師ミスター・スミス(エド・ハリス) 、画家志望のケーキ職人トマシュ(アレクサンドル・ポトチェアン) 、夜盲症のポーランド人カジク(セバスチャン・アーツェンドウスキ)、ラトビア人牧師ヴォス(グスタフ・スカルスガルド) 、ユーゴスラビア人会計士ゾラン(ドラゴス・ブクル)を仲間に引き入れる。
ある吹雪の日、脱走は計画に移される。
しかし、脱出直前、ロシア人のゴロツキ受刑者ヴァルカ(コリン・ファレル) から「一緒に脱走させろ」と強要される。ヴァルカは収容所内での借金が嵩み寝首をかかれる寸前だったのだ。
彼ら7人は、ツンドラの森の中、視界ゼロの猛吹雪に助けられ追撃の目をくぐり抜ける。彼ら7人の目指す先は、共産主義ではない国、シベリアのはるか南、インドだ。距離にして6500キロ。
途中、集団農場コルホーズから脱走した少女イリーナ(シアーシャ・ローナン) が加わり、一行に2本の足だけを頼りに、バイカル湖を越え、そして、なんとモンゴルの砂漠を縦断する。
砂漠を進む道中、旅の過酷さは少女イリーナから命を奪う。
希望の花にさえ見えていたイリーナを失った一行は、遥かインドまでたどり着くことができるのか?
『ウェイバック –脱出6500km-』あらすじラストまで
以下は完全ネタバレです。映画観る方は絶対にスルーしてくださいね
+ + +
主人公たちの逃避行は過酷を極めた。
当然、一人、また一人と命を落としていく。
果てしない砂漠を超えた後、彼らの前に聳えるのはヒマラヤ山脈だ。
一行はいっとき地元住民の世話になるが、季節に追われるようにヒマラヤ越えを決行する。
クライマックス、砂漠とは異なる厳しい山岳行が待つ。その果て、3人がインド国境までたどりつく。酷寒のシベリアから幾千キロ。彼らを迎えたその風景は、あたかも桃源郷のようだった。
3人は豊かな緑に覆われた、インド山岳地帯で暖かく迎え入れられて、エンドロールとなります。
「えっ?インドのイメージ、桃源郷ってのと違うんじゃない???」と思う方もいるかもしれませんが、インドは広いのです。ぼくもかつてインド旅したことがありますが、「まるで桃源郷だな」と思えた地方もありました。ラストの美しさに、自分のインド旅を重ねていました。
『ウェイバック –脱出6500km-』感想です
・書籍の内容を基本的にトレース
映画の『ウェイバック -脱出6500km-』は原作書籍の内容を基本的にトレースしています。
ですが、例えば収容所に送られる悲惨な状況が書かれるくだりは割愛。収容所内部での人間模様にぐいっと焦点を当てています。
すべからく本が前提としてある映画は、どこを削り、何をテーマとしてクローズアップするか?がカナメとなりますよね。
あれもこれもと詰め込んで、結果総集編的になってしまいがちな「原作付き映画」も多い中で、この映画はしっかり一本の柱「脱出!」を押さえていました。
この映画で立てられていた一本の柱=太い筋書きは「6500キロを2本の足のみで踏破する」ということでした。
この筋書きを貫いたことが延々歩く映画をラストまでダレさせずに持たせたと思っています。
・「We Walk!」~「歩くぞ」というセリフ
『ウェイバック -脱出6500km-』の主人公たちは、粗末な服と靴で遥か彼方のインドを目指します。収容所生活も過酷ですが、道なきみちをただ南に向かって歩く過酷さが、自然描写の変化から伝わってきます。
ツンドラからみどり豊かなバイカル湖畔、茫漠としたモンゴルの平原、そして砂漠とシーンは変わっていきますが、自然の壮大な美しさが、歩く人間のちっぽけさを嫌がおうにもクローズアップします。その辺りは『ナショナルジオグラフィック・エンタティメント』のカンムリ付きの面目躍如でしょう。
「おい、インドの前にはヒマラヤがあるぞ、山脈をどうやって越えるんだよ?」と一人が言います。主人公ヤヌシュは、一言「We Walk:歩く」と言ってのけます。
このシンプルなセリフ「We Walk:歩く」がこの映画の図太い柱となっています。ひたすら歩くシーンが頻繁に重ねられますが、撮影が素晴らしいからでしょう、ぼくは全然間延びを感じずに、彼らの「歩き」に同行していました。
誰も互いの過去を知らない寂しさ
物語が後半となり、途中から17歳の少女が脱出行に加わるのですが、彼女がキーマンとなり登場人物たちの過去の仕事が明かされていきます。
そこでようやく映画を観る側は「収容所は、「自分が何者であるか?」を隠す世界なんだ」ということを知らされます。
隣を一緒に歩いている男が何者なのか?それさえ知らずにいる世界が実際にあったんだ、と知らされます。(戦争の時は、己の本当の姿を明かさないことが処世術、、、間違いなくそうだったんでしょうね)
迫ってきた言葉「ウソはゴリゴリ」
強制収容されていたアメリカ人をエド・ハリスが演じていますが、途中から一行に加わる少女の作り話=ウソを諭すシーンがあります。
「逃げるためになんでもしてきたな。二度とウソはつくな。ウソはゴリゴリだ」
この言葉が戦争の時代が持つ狂気を表しているように思えました。
エド・ハリス、強くもあり、弱くもあり、、、人間臭くてヨイです。
人間臭いといえば、コリン・ファレルが、超危ないヤクザな男ヴァルカを演じています。危なさを演じたらすごいなあ、コリン。
チンピラだけどバカ正直な役回りで、ぼくはコリンファレル演じるヴァルカの人間臭さ、大好きでした。
・迫ってきた言葉「自分を責めるな」
主人公は、妻の虚偽(そうするしかなかった)で投獄、アメリカ人は息子が拷問の末殺されたという暗い過去を持っています。そして自分を責めている。
息子を助けられなかった自分を責めるアメリカ人にヤヌシュは言います。
「自分を責めるな。私の妻は今もなお自分自身を責めているに違いない。だが自分は彼女を責めていない。生きて帰って彼女に会って、責めなくて良い、と伝えたい」
「自分を責めるな」というアメリカ人にかけた言葉が心に刻まれました。
・主人公ヤヌシュの弱点
アメリカ人が脱走に同行する決心を固めた時、声をかけたヤヌシュにいうセリフがあります。
それは「お前の弱点に賭ける」という言葉。「その弱点とはお前の優しさだ」と、セリフは続きます。
ラスト近く、疲労で動けなくなったアメリカ人は、「自分を置いていけ」とヤヌシュに言います。それでもヤヌシュは見捨てない。
そのシーンを見て思いました。果たして自分ならどうしただろう???極限の極限でこそ人は試されるものだ…と映画は間接的にメッセージを投げかけます。
ほんとの優しさってなんだろう?見終わった今も、そのシーンが時代を越えてぼく自身に問いかけてきています。
・たった80年ほど前の出来事、そして世界
今日本に生きているぼくからすると、信じられない過酷な世界が当時あったのだ改めて知らされる映画でした。
歴史は繰り返すと言いますし、顔カタチを変えて、今も繰り返している、とも思います。
『ウェイバック -脱出6500km-』を観て、歴史を振り返る一つのポイントにしたい、と思いました。
僕の評価は、星四つ半⭐️⭐️⭐️⭐️✨です。
素晴らしい映画ありがとうございました。
『ウェイバック –脱出6500km-』トレイラー
『ウェイバック –脱出6500km-』配信は?
アマゾンプライムで有料視聴できます。
『ウェイバック –脱出6500km-』スタッフ・キャスト
監督/ピーター・ウィアー (『ジョン・ブック目撃者』『トゥルーマン・ショー』など)
キャスト/ジェム・スタージェス エド・ハリス コリン・ファレル シアーシャ・ローナン マーク・ストロング グスタフ・スカルスガルド他
コメント