ネタバレ感想『ウェイバック -脱出6500km-』実話映画のあらすじラストまで・評価レビュー〜逃避行は2本の足のみ

アドベンチャー

レビュー『ウェイバック -脱出6500km-』〜評価:2本の足に星四つ⭐️⭐️⭐️⭐️

今回レビューする映画は『ウェイバック -脱出6500km-』。第二次世界大戦時の実話として書かれた書籍をベースに作られたラーゲリ=収容所脱出モノです。ラーゲリムービーは他にもたくさんありますが、この映画の特筆すべきは、逃避行の距離の長さと過酷さでしょう。

ソ連シベリア収容所から逃亡した主人公たちのルートは、なんと「シベリア→バイカル湖→モンゴル→チベット→インド」ですよ。方法はひたすらに2本の足による、徒歩。

ぼくはこの映画の原作となった「『脱出記 シベリアからインドまで歩いた男たち』 (ロナルドダウニング・著/海津正彦 訳)を読んでいたので、この映画を観ました。

果たして映画は、、、?ちなみに『ナショナルジオグラフィック・エンタティメント』がオープニングクレジットに堂々と流れます。ラーゲリ系戦争映画というよりもネイチャーアドベンチャームービーといってもいいかもしれません。

『ウェイバック –脱出6500km-』あらすじです

まずは『ウェイバック -脱出6500km-』のあらすじを以下に簡単に紹介しておきます。ネタバレありです。見たい方は自己責任にてご覧ください。

時は、第二次世界大戦下。ポーランドの東半分を占領していたソ連によって、ポーランド人・ヤヌシュは無実の罪で捕われ、シベリアの強制労働収容所へと送られる。

収容所内では命はタバコより軽い存在だ。想像を絶する過酷な冬の寒さと飢えが収容された者たちの命を次々奪う。

ヤヌシュは仲間たち=画家志望の男、謎のアメリカ人、人の命を屁とも思わないゴロツキ…そんな6人と吹雪にまぎれ脱走する。

ツンドラの森の中、視界ゼロの猛吹雪に助けられ追撃の目をくぐり抜ける。彼らの目指すは、共産主義ではない国、シベリアのはるか南、インドだ。距離にして6500キロ。

途中、やはり収容所を脱走してきた一人の少女が合流。7人は2本の足だけを頼りに、バイカル湖を越え、モンゴルの砂漠を縦断。

砂漠を進む道中、旅の過酷さは少女から命を奪う。

一行は、遥かインドまでたどり着くことができるのか?

『ウェイバック –脱出6500km-』あらすじラストは?(ネタバレです。観る方はスルーしてね)

主人公たちの逃避行は過酷を極めた。

当然、一人、また一人と命を落としていく。

果てしない砂漠を超えた後、彼らの前に聳えるのはヒマラヤ山脈だ。

一行はいっとき地元住民の世話になるが、季節に追われるようにヒマラヤ越えを決行する。

しかし、最後には砂漠とは異なる厳しい山岳行の果て、3人がヒマラヤをこえ、インドまでたどりつく。そのインドの風景は、あたかも桃源郷だった。

豊かな緑に覆われたインド山岳地帯で暖かく迎え入れられて、エンドロールとなります。

「えっ?インドのイメージ、桃源郷ってのと違うんじゃない?」と思う方もいるかもしれませんがインドは広いです。ぼくもかつて旅したことがありますが、「まるで桃源郷だな」と思えた地方もありました。ラストの美しさに、自分のインド旅を重ねていました。

『ウェイバック –脱出6500km-』感想です

・書籍の内容を基本的にトレース

映画の『ウェイバック -脱出6500km-』は原作書籍の内容を基本的にトレースしていますが、例えば収容所に送られる悲惨な状況などは割愛。収容所内部での人間模様に焦点を当てています。

すべからく本が前提としてある映画は、どこを削り、何をテーマとしてクローズアップするか?がカナメとなりますよね。

あれもこれもと詰め込んで、結果総集編的になってしまいがちな「原作付き映画」も多い中で、この映画はしっかり一本の柱を押さえていました。

この映画で立てられていた一本の柱=太い筋書きは「6500キロを2本の足のみで踏破する」ということでした。

この筋書きを貫いたこと、成功だったと思います。

・「We Walk!」~「歩くぞ」というセリフ

『ウェイバック -脱出6500km-』の主人公たちは、粗末な服と靴で遥か彼方のインドを目指します。収容所生活も過酷ですが、道なきみちをただ南に向かって歩く過酷さが、自然描写の変化から伝わってきます。

ツンドラからみどり豊かなバイカル湖畔、茫漠としたモンゴルの平原、そして砂漠とシーンは変わっていきますが、自然の壮大な美しさが、歩く人間のちっぽけさを嫌がおうにもクローズアップします。その辺りは『ナショナルジオグラフィック・エンタティメント』のカンムリ付きの面目躍如でしょう。

「おい、インドの前にはヒマラヤがあるぞ、山脈をどうやって越えるんだよ?」と一人が言います。主人公ヤヌシュは、一言「We Walk:歩く」と言ってのけます。

このシンプルなセリフ「We Walk:歩く」がこの映画の図太い柱となっています。ひたすら歩くシーンが頻繁に重ねられますが、撮影が素晴らしいからでしょう、ぼくは全然間延びを感じずに、彼らの「歩き」に同行していました。

・互いのキャリアを誰も知らないということ

物語が後半となり、途中から17歳の少女が脱出行に加わるのですが、彼女がキーマンとなり登場人物たちの過去の仕事が明かされていきます。

そこでようやく映画を観る側は「収容所は、「自分が何者であるか?」を隠す世界なんだ」ということを知らされます。

隣を一緒に歩いている男が何者なのか?それさえ知らずにいる世界があったんだ、と知らされます。

・迫ってきた言葉「ウソはゴリゴリ」

強制収容されていたアメリカ人をエド・ハリスが演じていますが、途中から一行に加わる少女の作り話=ウソを諭すシーンがあります。

「逃げるためになんでもしてきたな。二度とウソはつくな。ウソはゴリゴリだ」

この言葉が戦争の時代が持つ狂気を表しているように思えました。

エド・ハリス、強くもあり、弱くもあり、、、人間臭くてヨイです。

人間臭いといえば、コリン・ファレルが、超危ないヤクザな男ヴァルカを演じていますが、彼もヤクザだけど正直な役回りで、ぼくは好きでした。

・迫ってきた言葉「自分を責めるな」

主人公は、妻の虚偽(そうするしかなかった)で投獄、アメリカ人は息子が拷問の末殺されたという暗い過去を持っています。そして自分を責めている。

息子を助けられなかった自分を責めるアメリカ人にヤヌシュは言います。

「自分を責めるな。私の妻は今もなお自分自身を責めているに違いない。だが自分は彼女を責めていない。生きて帰って彼女に会って、責めなくて良い、と伝えたい」

「自分を責めるな」というアメリカ人にかけた言葉が心に刻まれました。

・主人公ヤヌシュの弱点

アメリカ人が脱走に同行する決心を固めた時、声をかけたヤヌシュにいうセリフがあります。

それは「お前の弱点に賭ける」という言葉。「その弱点とはお前の優しさだ」と、セリフは続きます。

ラスト近く、疲労で動けなくなったアメリカ人は、「自分を置いていけ」とヤヌシュに言います。それでもヤヌシュは見捨てない。

そのシーンを見て思いました。果たして自分ならどうしただろう???極限の極限でこそ人は試されるものだ…と映画は間接的にメッセージを投げかけます。

ほんとの優しさってなんだろう?見終わった今も、そのシーンが時代を越えてぼく自身に問いかけてきています。

・たった80年ほど前の出来事、そして世界

今日本に生きているぼくからすると、信じられない過酷な世界が当時あったのだ改めて知らされる映画でした。

歴史は繰り返すと言いますし、顔カタチを変えて、今も繰り返している、とも思います。

『ウェイバック -脱出6500km-』を観て、歴史を振り返る一つのポイントにしたい、と思いました。

僕の評価は、星四つ⭐️⭐️⭐️⭐️です。

追記

実話ということに関して、あまりに荒唐無稽な逃避行に「事実かフィクションか?」という点で、今もなお、さまざまな議論があるようです。

書籍ではなんと、雪男らしき味覚人生物との遭遇も書かれているんですよ。その描写はもちろん映画では削られています。本の中でのそのエピソード描写は、ツクリモノにしては奇妙な唐突感がありました。

監督自身、「映画はフィクションとして脚本を書いた」と述べています。映画は映画として楽しむのが吉、ですね。

同じようなジャンルで、『9000マイルの約束』というラーゲリ脱出逃避行の映画があります。こちらのレビューも載せていますので、よかったらどうぞ。

 

『ウェイバック –脱出6500km-』配信は?

アマゾンプライムで有料視聴できます。

『ウェイバック –脱出6500km-』スタッフ・キャスト

監督/ピーター・ウィアー (『ジョン・ブック目撃者』『トゥルーマン・ショー』など)

キャスト/ジェム・スタージェス エド・ハリス コリン・ファレル シアーシャ・ローナン 他




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