『ヒトラーのための虐殺会議』評価星4つ⭐️⭐️⭐️⭐️
湖のほとりの一軒の邸宅。そこに集まったのはナチス親衛隊軍人と官僚たち…。のちのユダヤ人迫害ジェノサイドへの道を決めたその密室会議を描いた映画が実録映画『ヒトラーのための虐殺会議』です。
『関心領域』、『シンドラーのリスト』、『ソフィーの選択』、『アウシュビッツのチャンピオン』などホロコースト映画は数あれど、『ヒトラーのための虐殺会議』の視点は、今までなかったでしょう。この一本と、ユダヤ人迫害を描いた映画を合わせ見すると、さらに映画の理解が深まります。
「会議は踊る。されど会議は進まず」なんて言葉があったけど、この映画は「会議は破滅へ進む。されど止めるものはおらず」といったところでしょうか。
『ヒトラーのための虐殺会議』解説
原題は『Die Wannseekonferenz』(ヴァンゼー会議)です。元々はドイツのテレビ映画です。
1942年、ベルリンのヴァン湖(ヴァンゼー)のほとり畔にある大邸宅で、ナチス親衛隊の主導による、ある会議が開かれました。
「ヴァンゼー会議」です。
ヴァンゼー会議は、ユダヤ人問題の最終的解決策=収容所を作り虐殺する方法について議論するのが目的でした。
劇中も触れられる「会議議事録」の一部が発見され、映画の脚本はその議事録をベースにしています。
『関心領域』『シンドラーのリスト』『ソフィーの選択』『アウシュビッツのチャンピオン』などホロコーストを扱った映画は名作佳作が何本も作られています。
『ヒトラーのための虐殺会議』はそんなユダヤ人虐殺を描いた映画を見るうえで、いわゆる「虐殺することが、国家的組織的に決められた場」を知れる、稀有な映画です。
『ヒトラーのための虐殺会議』あらすじは?
あらすじはWikipediaから転載します。
ラインハルト・ハイドリヒの招きで、国家社会主義帝国政府と親衛隊当局の15人の高官代表が、1942年1月20日の朝、ベルリンのグロース・ヴァンゼーにある別荘に集まり、「会議と朝食」を行った。
後にヴァンゼー会議として歴史に名を残すことになるこの会議の唯一の議題は、国家社会主義者が「ユダヤ人問題の最終的解決」と呼ぶものであった。参加者たちは、とっくに始まっていたヨーロッパにおける数百万人のユダヤ人の組織的大量殺戮に関する組織的問題を討議し、分担責任を決定した。このヴァンゼー会議を描く。
『ヒトラーのための虐殺会議』感想です
制作国と公開年は何を意味する?
ホロコースト映画はたくさんありますが、舞台が会議室だけで完結するホロコースト映画は初めてでしょう。
それも制作国はドイツ。
公開年は2022年です。
このことが何を意味するでしょう?
国と年が意味するのは、第二次大戦時に虐殺を実行した側が、ホロコーストの始まりから80年を経てもなお負の遺産を刻みのこそうとした…ということです。
それだけでも見る価値のある映画だと僕は感じました。
つまらない?わかりづらい?
他のホロコースト映画と違って、会議室内(それもめちゃくちゃ立派な)だけですすみます。
最初、僕は始まりの静かさに惹かれるととともに、唐突に始まる会議メンバーの登場に「ついていけずに」戸惑い、そして思いました。
「この映画、二度見しないとわかんない系かな?」
ところがさにあらず!です。
だんだんとわかってくるのは、淡々としたセリフが畳み掛けていくのは「ユダヤ人をどうやって効率的に抹殺するか」なんです。
官僚省庁と軍隊を上げて事務的に話し合われる内容が、「徹底した殺戮の効率化」なんです。
ホロコーストのキーワードはみんなが好きなあの言葉
その「効率化」が徹底して事務的で、すごいです。
以下、ネタバレになりますけど、別に起承転結ドラマじゃないんで、バラしても良いでしょう、歴史的事実だしね。
「どうやったら貨車を安く走らせられるか」といったこと。
そこでぼくは思うわけですよ、『そうだよなあ、ホロコースト映画には必ずすし詰め貨車が出てくるもんな…あれだって走らせるのにタダなわけはないもんな。』
貨車の脇に立ってる兵士にだって給料が払われているわけで、「一輌貨車に対して何人」といった人件費削減までが話される。
「殺す」という言葉だって出てきません。
処理とか処置みたいな言い回しで語られる。
約一人、牧師だったという官僚がやんわりと反対意見を述べますが、それだって大河の流れにあっという間に押し流される木端のごときです。
人の命をなんとも思わないバケモノのような彼らですが、彼らがユダヤ人の命を相手にしておもうのはジェノサイドへの「コスパ」であり「タイパ」です。
「コスパ」と「タイパ」の遥かな先に…
ここで、日本を見てみると、今の日本社会を作ったのはそのコスパタイパなんですわね。
「内向きが得意な、カイゼンと効率化が優先されるカブシキカイシャニッポン」的空気に、ユダヤ人をホロコーストに追いやった、軍人官僚たちと同じ匂いを、ぼくは感じたのですよ。(ぼくは、ですよ)
80年前、ドイツ社会でユダヤ人をコスパタイパで死へと追いやって行ったそんな匂いを作り出したのは、いったいなんだったのか?
改めてその時代のこと、ユダヤ人が何故にあれほどまで迫害を受けることになったのか?を知りたくなりました。
普通ド派手なアクションで固唾を飲むのはままあるけれど、映画が淡々と終わってもなお固唾を飲んでた映画って、そう、ないですよ。
非常に稀な映画でした。
『ヒトラーのための虐殺会議』評価
1993年、ベルリンの壁崩壊後まもなくぼくはポーランドにアウシュビッツを訪ねました。辿り着くまでも大変だったんですが、そんなことはどうでもよくて、現地に立って、あの空気を体感して、ご飯も喉が通らなくなって、言葉を失った日でした。
そんな現地体験もあってか、基本的にぼくはユダヤ人の迫害をテーマにした映画によわいんです。
ぼくの評価は、星四つ🌟🌟🌟🌟
星の多くは、ドイツ人クリエイターの、負の歴史への深い考察力と、その負の歴史を叩き出すのに、こんな表現の仕方があったか!…という突き抜けたクリエイティブにつけた星🌟でもあります。
『ヒトラーのための虐殺会議』予告編
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