こんにちは!映画好き絵描きのタクです。今回取り上げる映画はイギリス映画の『生きる LIVING』。黒澤明監督作品『生きる』をイギリス映画陣がリメイクしたドラマです。(2022年公開作品)
脚本をイギリスのノーベル文学賞作家・脚本家のカズオ・イシグロが手がけ、オリバー・ハーマナスが監督。主役を演じたのは、ビル・ナイ。舞台はイギリスに置き換えられています。
事なかれ主義で空虚な日々を送る役人ウィリアムズが、ガンで余命宣告を受けます。彼が残された数ヶ月という時間で選んだ道とは???
黒澤明監督の『生きる』を見てなきゃダメ?そんなこと全然ないです。映画は純粋にそれぞれの見方で楽しめばいいとぼくは思います。
人生は輝かせるためにある…そんなメッセージをぼくは感じた『生きる LIVING』をレビューしてみます。
『生きる LIVING』予告編
『生きる LIVING』解説
『生きる LIVING』2022年公開・イギリスのドラマ映画です。上映時間102分黒澤明の映画『生きる』(1952年公開)のリメイク作品です。
1953年のロンドンを舞台に、ビル・ナイが演じる役人ウィリアムズが余命半年を宣告され、自分自身の人生を見つめ直す姿を描いています。
あらすじは黒澤明の映画『生きる』をベースにしていますが、もちろんイギリス舞台ということで、カズオ・イシグロがオリジナル脚本を書いています。
世界の映画祭でのノミネート、受賞多数。2022年1月21日に開催されたサンダンス映画祭でプレミア上映されました。
スタッフ・キャスト
監督:オリヴァー・ハーマナス 脚本/カズオ・イシグロ 撮影/ジェイミー・D・ラムジー 原作/黒澤明
キャスト:ビル・ナイ/エイミー・ルー・ウッド/アレックス・シャープ/トム・バーク 他
黒澤作品を知らないと楽しめない??
黒澤明の『生きる』のリメイクです、、、といっても、ピンとこない方も大勢いると思います。黒澤『生きる』自体、昔の映画ですから別に知らなくとも恥ずかしがることはありません。
だって、ぼくだって、「黒澤明の『生きる』と比べてどうだった?」と聞かれたら困ります。
確かにかな〜〜〜り以前見た記憶はありますけど、正直、有名なあのブランコシーン以外、全く覚えていませんから…。
よっぽど好きな映画でなければ、傑作映画であっても一度見るのがせいぜい、、、そんなもんです。
なので、『生きる LIVING』は、純粋に「新作」と思って観ていいですよ。
『生きる LIVING』あらすじ
舞台は1953年のロンドン。
若きピーター・ウェイクリングはロンドンカウンティカウンシル(市役所)の市民課に就職する。ピーターの向かいの席には先輩であるが若い女性ハリスが座る。
市民課の課長はウィリアムズだ。事なかれ主義を絵に描いたような堅物で、部下からも心なしか距離を置かれている。
ある日、市民課に下町の婦人たちから「廃墟を整地し子供たちの遊べる公園を作って欲しい」という陳情が持ち込まれる。
彼女たちは何ヶ月も役所に通い続けていたが、各部署は責任逃れの連続。何度もたらい回しにされていた。市民課課長のウィリアムズもまた彼女たちの陳情書を事務的に扱う。
そんな現実に疑問を感じる新人ピーターだった。
+ + +
ある日、課長ウィリアムズは末期ガンの宣告を受け、余命九ヶ月であることを知らされる。
同居の息子夫婦に伝えようとするが、言い出せないウィリアムズ。
彼は初めて役所を無断欠勤し、海辺の町ボーンマスに彷徨い、残り人生の楽しみ方を探り、酒にキャバレーに興ずる。
そんな享楽はしかしウィリアムズの心を満たすことはなかった。
+ + +
ボーンマスから戻ったウィリアムズは町でハリスを見かけ、食事に誘う。
ウィリアムズはハリスの職場での姿に、彼自身が忘れ、彼自身が忘れてしまった「輝き」を見出していたのだ。
しかしハリスは役所を退職し、カフェに転職。
ウィリアムズは改めてカフェにハリスを訪ね、映画に誘い、ガンで余命宣告を受けていることを初めて人に話す。
+ + +
ウィリアムズはハリスに病のことを告白する。さらに「あなた(ハリス)のように輝いて生きたい」とも。
ウィリアムズのハリスへの告白は、自分自身への宣言だった。
役所に復帰したウィリアムズは人が変わっていた。
以前見向きもしなかった公園造成計画を実現に向けて歩き出す。
ウィリアムズは土砂降りの中、部下たちを引き連れ、陳情されていた公園造成の現場へ出向く。
そこで場面は一転、冬の日のウィリアムズの葬儀会場となる。
+ + +
参列するピーターや部下たち。彼ら記憶を辿るように、ウィリアムズの為したことが語られてゆく…。
『生きる LIVING』あらすじラストまで〜ネタバレ閲覧注意
以下はネタバレとなりますので閲覧注意です。
亡くなる寸前、ウィリアムズは単身、公園を作るために駆けずり回っていたことが明かされる。
役所の各部署を先例ないほど強引な姿勢で説得し、公園造成まで漕ぎ着けたのだ。
しかし手柄は他の課や町の有力者に横取りされていた…。
+ + +
季節は変わり、時がたち、春。
死んだウィリアムズの席にはかつての部下が昇進し座っている。
全ては何も変わらなかったような職場で、しかしピーターはそんな現場に対し、心にしこりを抱えていた。
とある夜、ピーターはウィリアムズのことを追想するかのように、ウィリアムズが作った公園に出向く。
そこで一人の巡査と出会うピーター。
巡査はウィリアムズの最後の姿を目撃していたのだ。
巡査はピーターに、悔いを滲ませ、ウィリアムズの命の火が消えた雪の日のことを話す。
「ウィリアムズさんは、雪の降るなかブランコに座り、幸せそうな空気を纏っていました。だから僕は家に帰りなさい…と言えずにその場を去ったのです」と。
巡査の話を聞き、ピーターは確信した。
ウィリアムズは最後、雪の中、幸福な心のままにこの世を去った….ということを。
『生きる LIVING』考察
裸の踊り子に込められたメッセージは?
自分自身の命があと数ヶ月で途絶えると知ったウィリアムズは、仕事をサボって港町ボーンマスに遁走、「人生の楽しみ」を求め、静かにあがきます。
それは「残された人生を楽しもう」とのウィリアムズあがきなのですが、映画では飲み、歌い、酔い潰れる寸前まで行きます。(享楽といっても、ウィリアムズが長年やってきた仕事は役所の課長です。ハメ外せません。至って静かです)
この享楽シーンがあるからこそ、後半でウィリアムズが自分なりに輝こうとするシーンが際立ちます。
ウィリアムズは「飲む、食う、歌う、酔う」といった、いわゆる日常あちこちの転がっている「楽しみ」は、いっときの享楽に過ぎず、「人生の楽しみ」とは違うことを知る、とっても印象深いシーンです。
「なんでボーンマスでキャバレー行くの??なんかヘン」と思われるかも知れません。しかし、己のの余命を知った、世間の片隅に生きてきたしがないお役人ウィリアムズが、何かに気づき変わるためには、そんなベタベタな享楽の体験が必要だったのです。
ボーンマスのシーンがなかったならば、ありきたりな「余命わずか善人ストーリー」になっていたように思います。
ボーンマスの海辺のテントキャバレーで踊り子が衣装を脱ぎ捨てます。
この踊り子が衣装を脱ぎ捨て裸になるシーンは、「虚飾を捨て去ることこそ、人生を楽しむ第一歩だ」という隠喩が込められている、と感じました。
観客に対しても「このシーンは特別なんだ、虚飾を捨てることができますか?」と問いかけているのです。
ぼくは、衣装脱ぎ捨てた踊り子の後ろ姿に拍手でした。
ウィリアムズが部下のハリスから学んだこととは?
ボーンマスへの失踪から戻ったウィリアムズは、市民課の部下の若い女性ハリスと偶然再開します。
ウィリアムズは部下たちから少し距離を置かれている堅物なのですが、ハリスはそんなウィリアムズに対してナチュラルに接していました。
そして、ウィリアムズは、ハリスが「輝いている」ことに、今更ながら気づきます。
同時に「人生の幸せ」とは、楽しむことではなく「輝く」ことにあると知るのです。
しかし、「君は輝いている」と言われたハリス自身、そんな「自分が輝いている」なんてことには、全く気づいていません。
そうなんです、輝いている人物は、自身が輝いているなんて、これっぽっちも思っていないのです。
輝きは自分自身には見えない、、、
人の輝き方にこそ、映画『生きる LIVING』の最も大事なテーマが込められている、と、ぼくは感じています。
ウィリアムズ流・命の輝かせ方
ハリスと会い、命を輝かせるためにウィリアムズが取った行動は、結果、市役所のそれまでの慣例をぶち壊すことになります。
しかし、慣例を前にウィリアムズ一歩も引きません。
そのシーンのウィリアムズの表情が、とてもいいです。
ウィリアムズは役所内の別部署に煙たがれても、とことん食い下がります。しかし、そんな一連のシーンで見せるウィリアムズの表情には「怒りの顔」はありません。
誰でも人が輝きを発する時、その人の顔からは、怒りや焦燥感情は影を潜めざるを得ない、、、。
人が輝いた時、怒り・アンチ・焦燥といったダークな影は、光にのまれてしまうという永遠の真理を『生きる LIVING』は静かに説いています。
『生きる LIVING』感想
ウィリアムズが別人のように変わって職場に復帰し、部下たちを強引に引き連れて一歩踏み出すシーンがあります。
そのシーンは絶品!
カメラの捉え方に僕は「輝きだ」と思わず呟いていました。
そしてそのカットの次は一転して「ウィリアムズの葬儀会場シーン」となります。
あまりに見事な場面転換に息を飲みました。
同時に「この映画、傑作だ。時代を超えてくな。」とも確信しました。
黒澤:生きる』と同様、主人公がブランコに乗って歌うシーンももちろん印象深いです。
だけど、輝きの中へ踏み出したウィリアムズが次カットで遺影に変わるシーンこそが、ぼくの中ではダントツベストシーンとなっています。
カズオ・イシグロの脚本について
映画の広報ではカズオ・イシグロのシナリオということがフィーチャーされていましたが、ぼくはカズオ・イシグロ氏については「ノーベル文学賞を受賞した作家」、、、くらいにしか知りませんでした。脚本家だったということさえ知らなかったです。
ですが、『生きる LIVING』の脚本は本当に素敵だな、と感じました。
余計なセリフは言わせずに、きちんと行間に言わせます。
ウィリアムズが態度を改めて、新しい自分に生まれ変わったシーンが一転して葬儀場面に変わる転換なんて、のけぞりました。
カズオ・イシグロのいろんな本や映画を観てみたくなりました。
『生きる LIVING』ぼくの評価です
ぼくの評価は、星四つと半分です。老若男女とわずオススメです。
星が半分欠けた理由は、ただ単にオリジナル(黒沢監督の生きる)がすでに存在しているから、、、です。
素晴らしい映画をありがとうございました。
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