『君を想い、バスに乗る』は、90歳の老人が、英国に北のはずれ、ジョンオゴーツから南の果てランズエンド岬までの1400キロを路線バスで旅するロードムービーです。原題は、『The Last Bus』…「最後のバス」とはなんとも意味深です。
『君を想い、バスに乗る』を観てこう思いました。「旅は出会いのタペストリーだよな…」。
ぼくが実際にランズエンド岬へ旅した体験も踏まえながら、ロードムービー『君を想い、バスに乗る』のあらすじから感想・配信先まで、まとめてみました。
『君を想い、バスに乗る』予告編
『君を想い、バスに乗る』映画のあらすじは?
足もおぼつかなくなってきた90歳の老人がイギリス1400キロを縦断する旅に出る。それも路線バスで。老人が主役のロードムービーは過去何本か観てきましたが、『君を想い、バスに乗る』はどんな旅なのかを、まずはあらすじで追ってみます。
愛する妻の死をきっかけに、主人公トムはランズエンド岬まで旅することを決意し、旅立ちます。
荷物はかばん一つ。足は、路線バスのみ。
トムが手にしているバスチケットは、指定全区間乗り降り自由の「シニア向けフリー乗車券」です。
英国縦断の旅ルートが縦糸ならば、道中の見ず知らずの人々との出会いが横糸です。(誰かの歌に聞いたことあるような…。)
バス停で、車内で、一息つく見知らぬ町で、トムと見知らぬ人々との出会いがタペストリーのように織り上げられ、旅が続きます。
ある町では、疲労のあまり倒れてしまったトムが助けられたり、とあるバス停では偶然並んだ若者たちの前で歌を歌うことになったり。
また車内トラブルに手を差し伸べたり、、、。
トムの旅は、自ら知らぬ間にSNSで拡散され、英国各地にトムの旅を陰ながら応援する人々が現れます。
本作のポスターキャッチコピーに
「人生は乗り合いバスのように、過去と未来を紡いでいく」
とあります。見事に映画のあらすじを一行にまとめています。
そしてゴールのランズエンド岬で明かされる真実とは…。
以下は、ストーリー結びのネタバレになりますので、閲覧注意、映画観たい方、観る予定のある方は、ぜひスルーしてください。
『君を想い、バスに乗る』映画のラストは?ネタバレ閲覧注意!
そしてランズエンド岬で待って迎えてくれたのは、SNSでトムを応援していた見知らぬ人々です。呆気に取られるトム。
そして、なぜトムはランズエンドを目指していたかが、ラストで明かされます。
トムには、実はランズエンド岬近郊で亡くなった妻との新婚生活を始めていたのです。
しかし幼くして亡くしてしまった子供がいました。
幼子を亡くした傷心のトム夫婦は、子供との思い出から逃げるように、北の果てジョンオゴーツに旅立ち、そしてそこで新たな暮らしを始めていたのです。
そう、ランズエンド岬への旅は、死んだ妻への想いを抱いて、亡くなった我が子のお墓への旅だったのです。
ラスト、教会墓地に思い出を見つけるトム。満足げな表情で、疲れた足を引きずって、光の中へトムはいざなわれて映画は終わります。
そしていつしか僕は「よかったね」と心の中で呟いていました。
『君を想い、バスに乗る』のラスト、「光のなかへ」溶けゆくシーンは何を物語っていたのいたのかは、観客の判断にまかされます。
「トムの命が光の中へ旅立った」と見ることもできるでしょう
あるいは「光は、妻からのありがとうというメッセージだった」と捉えることもできると思います。
『君を想い、バスに乗る』の原題は、『The Last Bus』…「最後のバス」です。ラストは、ぜひ色々なシチュエーションを考えて欲しいです。
十人十色のラストで良いのだとぼくは思いました。
『君を想い、バスに乗る』ぼくの感想です
俳優ティモシー·スポール、驚異の後期高齢者演技!
『君を想い、バスに乗る』の主役を演じたのはティモシー·スポールです。
90歳の老人を演じていますが、観ているこっちまで歳をとったように感じてしまうほど、見事でした。
ちなみに演じた時、ティモシーは60歳だったということです。
その役への入り方は、イタリアで開催されている「バーリ国際映画祭」での『最優秀主演男優賞受賞』で、お墨付きをもらっています。
話がそれますが、映画『ゴッドファーザー』での主役ドン·ビトー·コルレオーネを演じたマーロンブランドの老けぶり演技もど迫力でした。役者さんの凄さって、老いた役をさせたときに出るものかもしれないですね。
ぼくはティモシースポールの演技をみて、つい、『ゴッドファーザー』のマーロンブランドを思い出してしまいました。
『君を想い、バスに乗る』カメラの美しさ
『君を想い、バスに乗る』は、映像がとても美しいです。
イギリスのスコットランドの北の果てジョン·オ·ゴーツからイングランドの南の果てランズエンドまで、自然風景をカメラが見事にとらえています。
ちょっとだけ、「イギリス風景いいとこガイド」の匂いがカメラの向こうに漂うのは、目をつぶります。(チラシ、パンフレットを見ると、「ブリティッシュ カウンシル」が後援についていました。)
綺麗な映画だなあ、、、と、あらためてパンフレットに監督プロフィールを見ると、監督のギリーズ·マッキノンは、「映画制作者であり画家」と書かれています。
そのキャリアを考えると、美を最大限にクローズアップして捉えるのは監督にとって呼吸するがごとく自然の行為、当然の映像表現かもしれません。
しかし、『君を想い、バスに乗る』の美しい表現は風景にとどまりません。
『君を想い、バスに乗る』人の心の温かさ
『君を想い、バスに乗る』で表現された美しさ。それはトムと出会う人々の心の美しさでもありました。
長年連れ添った最愛の妻を亡くしての、主人公トム一人旅です。切なすぎまず。
そんなトムの寂しさを支えるように、次々と絡み合う見知らぬ人々の、なんと人ハートフルで美しいことか。
同時にそんな人々も、心のどこかに寂しさを抱えていることが垣間見えるシナリオがまた素敵なのです。
「そうなんだよ、人生も旅も「出会う人次第」なんだよなぁ…目的持って無心に進むと、不思議と素敵な人たちに助けられるものだよな…」と感じた一本でした。
『君を想い、バスに乗る』ぼくのランズエンド岬への旅
余談ですが、実はぼく自身、その昔1997年、ロンドンからランズエンド岬まで、路線バスと電車を乗り継いで、リュック担いでひとり旅をしたことがあります。
目的地だけランズエンド岬と決めて、予定は未定という旅スタイルでした。
ひとり旅は心細いからでしょうか、バスの中で、汽車の中で、心の中はとても饒舌になるんです。常に風景と、さらには大いなる何かと、お話ししているのです。そんな自分の旅も思い出していました。
映画の劇中にも登場するダートムーアの荒野の中、ポツンとたつ旅籠での記憶や、バス停で隣に座ったおばあさんとの会話、そして、最果てに、ひとりたどり着いた時の海風と太陽の記憶…。
ぼくのランズエンド岬までの旅は、終わったように見えて、実は終わっていなかった。そう、この映画まで続いていました。
『君を想い、バスに乗る』ぼくの評価です
「旅に出るって、こういうことだよね…やっぱりさ、人生は旅だよ」
と、ぼくは映画館をあとにしました。
【君を想い、バスに乗る】は、旅好き=特に英国好き、迷い旅好きには、たまらない一本。
旅に出たことない人には、「迷い旅マジック」を体験できる映画です。
ぼくの評価:旅好き、バス好き、最果て好き、ロードムービー好き、ということで90点でした。
【君を想い、バスに乗る】ロードムービーの魅力とは?
ぼくはその昔、イギリスBBC放送が制作したドラマを観ました。数回連続だったと思います。
内容は、定年を迎えた一人の男が、残りの人生を考えながら徒歩でイギリス縦断の旅に出る…そんなドラマでした。
そのドラマの主人公の出発地は、イギリス最南西端の岬です。(そう『君を想い、バスに乗る』のゴールとなったランズエンド岬です。)
「ランズエンド」は訳すと「地の果て」。「最果て岬」という意味合いでしょうか。もちろん実在の岬です。
そしてゴールは、英国の北の端、ジョン·オ·ゴーツという町でした。(『君を想い、バスに乗る』のトムが暮らしていた町です。)
旅をすすめる先々で出会う人間ドラマ、悲喜こもごもがとても良い感じにまとまっていました。
「出会う人々が道を形作っていくんだなあ…」
観終わってそんな想いを抱いた記憶があります。残念なことに、そのドラマのタイトルを覚えていないのが悔やまれます。
「君を想い、バスに乗る」もまた、同じく旅のおはなし、いわゆる、ロードムービーです。
そして、たどるコースは、BBC制作のドラマとは真逆。ジョン·オ·ゴーツからランズエンド岬まで。それが主人公の旅ルートです。
「A地点からB地点までいく間の出来事を描き出す」こと。それは脚本の定番の一つといってもいいです。
AからBへ行く途中に待ち受ける非日常の素敵な出会いは、実は、普段の暮らしにも見え隠れしていることだったりします。
そんな素敵な出会いを描いた『君を想い、バスに乗る』は、「ちょっと生きるの頑張ろう」って思える良質ロードムービーだとぼくは思いました。
自分の「最果て」まで、あと何マイルあるんだろう?
そんなことも考えさせられる映画でした。
『君を想い、バスに乗る』キャスト・監督の略歴は?
キャスト・監督情報は以下に映画『君を想い、バスに乗る』公式サイトより一部抜粋転載します。
キャストティモシー・スポール TIMOTHY SPALLイギリスが誇る、最も才能あるキャラクター俳優の一人。マイク・リー監督の『ターナー、光に愛を求めて』(2014)でJ.M.Wターナー役を演じ、世界中で絶賛され、カンヌ国際映画祭の男優賞を含め7つの国際映画賞を受賞した。国立青少年劇場と王立演劇学校で訓練を受けた後、舞台俳優としてキャリアを始め、バーミンガム・レパートリー・シアターとロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで活躍した。
監督ギリーズ・マッキノン Gillies Mackinnon
スコットランド出身の映画制作者であり画家。『Pure ピュア』(2002)はベルリン国際映画祭でマンフレッド・サルツゲーバー賞、『Trojan Eddie(原題)』(1996)はサン・セバスティアン国際映画祭で最優秀作品賞、『Small Faces(原題)』(1996)はエディンバラ国際映画祭で最優秀英国映画賞を受賞している。代表作:『Torvill & Dean(原題)』(2018)、『ウィスキーと2人の花嫁』(2016)、『Castles in the Sky(原題)』(2014)、『Zig Zag Love(原題)』(2009)。
(以上、君を想い、バスに乗る公式サイトより一部抜粋転載)
『君を想い、バスに乗る』配信先
配信サービス(2024年)
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[…] イギリス映画の『君を想い、バスに乗る』です。 […]