映画『リトルダンサー』感想・ネタバレ考察・あらすじ評価〜ラストシーンとアダムクーパーのこと

ヒューマン・ハートフル

こんにちは!映画好き絵描きのタクです。今回レビューする映画は、『リトル・ダンサー』。2000年公開のイギリス映画です。

『リトル・ダンサー』原題「ビリー・エリオット」は、イギリスの炭鉱労働者の息子、少年ビリー・エリオットが、父親の期待に反してバレエダンサーを目指す姿を描いた映画です。




11歳だけが持つ世界と成長ドラマを独特の語り口で描き、ジェンダーフリーの視点をも併せ持っているおすすめ名画です。

そんな映画のあらすじと感想、考察から、劇中映像で使われるフレッド・アステアの伝記映画制作情報、アダム・クーパーと天海祐希の舞台『レイディ・マクベス』情報までまとめてみました。






『リトル・ダンサー』あらすじは?

舞台は1984年のイギリス。ストライキが激しくなっている炭鉱町ダーラムが舞台。

11歳の少年 ビリー・エリオット(俳優=ジェイミー・ベル)は、父親や兄たちと一緒に炭鉱労働者が暮らす街区に暮らしている。

「男の子はボクシングかサッカーだ」という父に半強制的にボクシングを習わされているが、そこでビリーは、クラシックバレエに出会う。

気がつくと、バレエに対して強い興味を抱き、バレエスクールに通う彼。その才能にバレエ教室の先生であるミス・ウィルキンソンが気づき、先生はビリーにダンスへの道をすすめる。

しかし、ビリーの父親と兄はバレエに対してアンチ。葛藤するビリーは自分のバレエへの道をとり、ロイヤルバレエアカデミーへの試験に臨む…。

と、こんな筋です。

物語は、父親、兄との確執、そして友達との心のつながりをたて糸よこ糸に織り交ぜながら進んでいきます。進むべき道を知ってしまった少年と、自らの信念をまげ、子の信念に心を寄り添わせる父、そして家族のドラマです。

映画「ビリー・エリオット」のラストで踊るダンサー役(大人になったビリー)を、今をときめくバレエダンサー、アダム・クーパーが演じています。




『リトル・ダンサー』は実話?

リアリティのある内容の『リトル・ダンサー』は、ラスト白鳥の湖のシーンでアダム・クーパーが出てきます。その存在感の強さから、ぼく自身初めてみた時は「アダム・クーパーの自伝的映画=もしかして実話かな?」と思っていました。

ですが、この映画はれっきとしたフィクション。実話ではありません。

実話かも、と、観客に思わせてしまうリアルな空気感と脚本が『リトル・ダンサー』のすごさだと思います。



『リトル・ダンサー』感想レビュー

マイノリティ讃歌

『男の子ってのは、ボクシングやサッカーをするもんだ』

バレエに目覚めかけたビリーは、こんな言葉を父から投げつけられます。

ビリーは、「バレエのどこが悪いの?ゲイのやることだと思ってないか?」と、反論します。

セリフを聞いて、ぼくは、「父親のこの考え方、どこにでもあるよな」と、とても切なくなりました。

男はこうあるべき、だの、女ってのは、かくあるべしみたいな考え方は、今でこそ過去の遺物となりつつありますが、1900年代、ミレニアムあたりまであっちこっちにフツーに転がっていた、アルアルスタンダードです。

実はぼくも、男子必須的な野球やサッカーに興味が持てず、でも、話の輪に入っていくにはそんな話をしなければならない。ぼくは、◯◯の話や△△の話(結構マイナー、いわゆるオタク話題)をしたいのにな、と、やりきれない思いで子供時代を過ごしてきた面があります。

なので、映画の中のビリーは、ぼくにとって、過去の投影そのものでもありました。

この映画は、2000年を越えてようやく世に出てきた新スタンダードの、そして広義の意味でマイノリティ讃歌でもある映画だと思います。




心のせめぎ合いが迫ってきます

冒頭、ビリーがボクシングを習うシーンがあります。

ビリーは本当はボクシングはやりたくない。だけど11歳の彼は、そのことをうまく父に伝える術=言葉を持っていない。

練習場のドアで、ビリーは友達マイケルとすれ違います。マイケルは体は男性ですが、心は女性という役回りです。マイケルは、多分、性同一障害なんですね。

彼は、「ボクシングのどこがいいんだ?殴り合って何が楽しいの?」といぶかしげに言います。(マイケルは、映画の中で、唯一、世間に向かって正直に生きているアイコンでもあります。)

自分がバレエやダンスに目覚め始めるビリーには、言葉にできない、こころの中のせめぎ合いがあります。

「バレエは、男のぼくがやっちゃいけないと思っていたけど、ぼくは、それが心の底から楽しいことだ、ってことを知ってしまった。困った。ぼくはどうしたらいいんだろう?」

そんな思いを受け止めるのも、ビリーの友達マイケルです。

厳しいけれどバレエの先生もまた、違ったカタチで支えます。




揺れる親心が切ない

さらに物語の後半になると、ストーリー展開を強く支える役回りは、一転、ビリーの父となります。

クリスマスの夜、ボクシングジム(兼、実はバレエのレッスン場)で、チュチュをまとったマイケルに、ビリーがバレエの型を教えるシーンがあります。

その二人を父は目撃してしまう。見られたビリーは抑えていた感情を爆発させるように踊りだします。このシーンのなんと激しくも美しいこと。

そして、戦っているかのように踊るビリーと対峙する父を、そっと見守るマイケルの姿もまた美しい。

父はビリーの踊りを見た後に、自分が古い価値観に囚われていたことを悟ります。

そして、バレエ教師の元を訪れ、こう聞きます。「バレエアカデミー受験には、いくらかかるんだ?」

父は、金も無いこと、さらには自分には未来も無いことを恥じ、ある行動に出ます。

炭鉱ストライキを続ける労働組合の仲間たちと、袂を分つのです。




『リトル・ダンサー』考察

大切だったものとの訣別が心にのこる

それは、無い無い尽くしの父が、ビリーのバレエへの思いを支えるための、過去との訣別、すなわち「大切だったものとの訣別」にほかなりません。

この「大切だったものとの訣別」は、父親のみならず、ビリーにも訪れています。

バレエ教師から、「あなたの宝物を持ってきて」と言われ、ビリーは母親の手紙とカセットテープを持ってきます。ぼくは、「大切な何かを得るためには、大切だった過去サムシングとの訣別が必要なんだ」という映画メッセージに思えてなりませんでした。(違うかもしれないけど)




伝える言葉を持ちえない「11歳の世界」に納得

この映画の中で、ビリーはじめ11歳の子どもたちのセリフは、オトナの僕らから見ると、どこか違和感があります。どのセリフをとっても、ドキリとします。しかし同時にすべての言葉が輝いて見えます。

なぜだろう?とぼくは考えました。

以下が、ぼくの答え。

彼らの会話は、まだオトナが交わす言葉ではありません。あえてチグハグ感を狙ったのは、

『まだオトナ論理というものを持ちえない「11歳」という子どもたちの世界は、クレイジーでもあり、しかし同時にウソがなく清らかだ』

というメッセージを込めたかったから。ぼくはそう思っています。




消える少女の謎解き

劇中、ビリーと一緒に歩いてきた同級生の女の子が、彼と別れ際、タクシーの陰に入ります。タクシーが通り過ぎると、あれ?いるはずの少女が消えているという、不思議なシーンがあります。(もちろん飛び乗ったわけではない)

このシーンで、映画は何を伝えたかったのか?

それは、前に述べた、「論理を持ち得ない子供のストレートな心」だと思っています。それをあのカットで、映像で表現をしたのではないでしょうか。

女の子はビリーのことが気になる存在なのですが、ビリーはまったくその気無しで、バレエと踊りのことで心がいっぱいになっているのです。

道路を渡った瞬間に、彼女のことは「心から消え、踊りに占有されてしまっている」。だから振り返ることもしない。

その心模様をあの「消える」カットで表現したのだ、と、ぼくは思っています。




『リトル・ダンサー』主役ジェイミー・ベルのダンスのこと

古い映像でタップを踏むフレッド・アステアの映画シーンがさし挟まれます。(アステアのことを取り上げた記事はこちらにあります)

これはもちろんビリーのタップダンスシーンへの伏線でもありますが、ビリー役のジェイミー・ベルのタップステップも素晴らしいです。見事なバックステップなど、にわかタップレッスンではできないようなステップが繰り出されます。ジェイミー・ベルのミュージカル映画、観てみたいなあ、と思っていたら、なんとなんと!今、制作中とのこと!!!それも本編でも使われたフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの伝記映画!

こちらも楽しみです。



『リトル・ダンサー』肝心のラストシーンは?アダム・クーパーって?ネタバレあり

ラストはネタバレ含みますので映画で楽しみたい方はスルーしてください。

ロイヤルバレエアカデミーに入ったビリーの12年後(確か…)で、ラストは締め括られます。白鳥の湖の音楽とともに、ステージ袖から駆け出すダンサーたち。そして、ステージに一人高く舞うビリー。見事な幕引き、感涙ラストでした。

その成長したビリー役を演じたのが、バレエダンサーのアダム・クーパーです。わずか数分のラストシークエンスに、映画のそれまでのエピソード=過去が一点に集まり、アダム・クーパーの踊りに見事に昇華していました。

この映画を観るまでアダム・クーパーの存在を知らなかったのですが、ラストの舞台のシーンで深く印象に残り、結局ぼくは2018年、東京シアターコクーンに彼のミュージカル『雨に唄えば』を観劇しました。

舞台に実際に雨を降らせてのアダムが踊りまくりました。それは言葉にならないほど素晴らしいステージでした。




はみ出し情報~アダム・クーパーと天海祐希の『レイディ・マクベス』公演

そのアダム・クーパーが再来日しています。天海祐希と共演舞台『レイディ・マクベス』公演が、10月1日より始まりました。

これは、天海祐希、アダム・クーパー好きなら、必見でしょう。『レイディ・マクベス』公式サイトを以下に貼っておきます。

レイディマクベス | tsp(トータル ステージ プロデュース) 公式サイト

アダム・クーパーの日本公演に向けてのインタビューはこちら↓

初日前会見のアダム・クーパーと天海祐希の初日前会見の様子がYouTubeでアップされていましたので貼っておきます。天海さん、本当に嬉しそうです。

「天海祐希、憧れの俳優に褒められ感激!主演舞台がいよいよ開幕 『レイディマクベス』初日前会見」




『リトル・ダンサー』スタッフ・キャスト

スタッフ:監督/スティーブン・ダルドリー 脚本/リー・ホール 音楽/スティーブン・ウォーベック

キャスト:ジェイミー・ベル/アダム・クーパー/ジュリー・ウォルターズ/ゲイリー・ルイス/ジェイミー・ドラヴェン 他

ちなみに、バレエの先生役を演じたジュリー・ウォルターズはどこかで観たことあるなあ、、、と、調べてみたら、ハリーポッターシリーズに出演していました。

イギリスの至宝といってもいい女優さんなようですよ。

だって、英国王室から三つの大英帝国勲章を授与されていますから。



『リトルダンサー』配信先は?

U-NEXTとRAKUTEN TVで配信しています。







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