こんにちは、映画好き絵描きのタクです。今回レビューする映画は、ラブロマンス殿堂入りの『リトル・ロマンス』(A Little Romance-1979年公開のアメリカ映画)。
監督が奮ってます。名匠ジョージ・ロイ・ヒル。『明日に向かって撃て!』『スティング』といった名画を撮っている、個人的に大好きな監督です。そして今や名女優となったダイアン・レインのデビュー作。
「べニスため息橋で「サンセットキス」を交わした二人は永遠に結ばれる。」…そんな伝説を信じたパリに住む13歳の高IQの天才少年少女が、イタリア・ヴェローナ、そして「ため息橋」のあるベニスへと愛を約束するために逃避行を繰りひろげる、絡むはこれまたビッグな俳優、ローレンス・オリビエ。珠玉の小さなラブストーリーです。
『リトルロマンス』予告編
『リトルロマンス』ってどんな映画?ざっくり解説
こんな素敵な映画には、ほんと滅多に出会えません。
『リトルロマンス』は、13歳の子供が主人公です。なのでラブロマンスといってもオトナのそれとは訳が違います。
主人公ふたりの純真さが全編ラストまでストーリーを貫いて、子どもたちのありのままの姿と打算のない成り行きに、つい、「遠くに忘れてしまった何か」を考えさせられます。
そして、二人を支えるのは一人の老人です。彼は、「人生の妙味」をきちんと二人に伝えます。
脇役たち一人一人にもこだわっています。
愛すべき人物は愛すべきセリフを言わせ、こいつダメだろという人物には、しっかりダメな立ち位置を踏ませ流といった、に深い味付けを施した緻密に練られた脚本も逸品です。
そんな『リトルロマンス』の監督は、寡作なれど名匠、ジョージ・ロイ・ヒルです。
ヒル監督の他の代表作は『スティング』『明日に向かって撃て!』『華麗なるヒコーキ野郎』と、これまた佳作ばかり。
ジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグにバトンを継いだ世代の監督の一人といっても良いとぼくは思っています。
さらにいうならば、そんなジョージ・ロイ・ヒル監督の「最初にして最後のラブロマンス映画」でもあります。
主役をローレンをダイアン・レインが初出演で名演技を見せ、ダニエルをテロニアス・ベルナール。その二人に絡む老紳士ジュリアスを名優中の名優、サー・ローレンス・オリビエが演じています。
脇役には他にローレンの父親役にアーサー・ヒル。母親役をサリー・ケラーマンが出演。
『リトルロマンス』の妙味の一つは劇中劇多用の魅力でもあります。「ところどころに過去の映画の名シーンが挟まれる」という、ジョージ・ロイ・ヒル監督ならではの「映画愛」もみっちり詰まっています。
そう、オールド映画ファンにはたまらない作品、また若い映画ファンには、映画に出てくる名シーンを確かめてみたくなるような一本になっています。(絶対『スティング』『明日に向かって撃て!』は見てほしい映画です)
アカデミー賞オリジナル作曲賞を作曲家ジョルジュ・ドルリューが受賞しています。
『リトルロマンス』主題歌「サンセット・キス」
ネットで懐かしく『リトルロマンス』を検索していたら、結構主題歌が気になる方、多いように思えました。
ところがぼくは「あれ?主題歌ってあったっけ?」と思い出せず…。調べてみたら、こんな歌でした。
やっぱり記憶になくて、映画で印象的だったのはリコーダーの音楽でしたので、そちらも調べてみました。
で、見つけたのがこちら↓
音楽を担当したジョルジュ・ドリューが『リトルロマンス』のサウンドトラックでアカデミー賞オリジナル作曲賞を受賞しています。
(ちなみにジョルジュ・ドリュー作曲作品で多分「あっ!この曲!」となるのは「プラトーン」のメインテーマというかた、多いのでは?)
『リトルロマンス』あらすじ(ネタバレあり閲覧注意!)
〜あらすじ中盤まで
以下あらすじは、もちろんネタバレとなりますので、映画を見たい方はスルーしてくださいね。
主人公は、パリの暮らす映画マニアの少年ダニエル。しがないタクシー運転手の父と二人暮らしの13歳だ。しかし競馬新聞の予測が得意で机上では大穴をこっそり当てている。
そんなダニエルは課外授業で富豪の娘、ローレンと出会う。彼女もまた IQが高い娘だった。
ダニエルはローレンに一目惚れ。ふたりは交際を始める。
ローレンの誕生日のパーティに招かれたダニエルは、シャンパントラブルを起こしてしまい、ダニエルはローレンの母から締め出されてしまう。
それでも惹かれ合う二人はデートの最中に一人の老紳士ジュリアスと出会う。
ジュリアスは「ベニスの「ため息橋」で夕暮れ時にキスを交わした二人は永遠に結ばれる」という伝説を二人に話し、伝説にうっとり惹かれるローレン。ダニエルは思いのほか、冷静だ。
そんな折、ローレンの父は、妻=ローレンの母=の不義理を正すため、本国アメリカへ戻る決断をくだす。母は二流の映画監督に惚れており、ローレンの誕生日さえ忘れる始末だったのだ。
アメリカへの引っ越し 。それはローレンとダニエルが会えないことを意味する。
ダニエルはローレンとベニス「ため息橋」への逃避行を計画する。「ため息橋」でのサンセットキスを実現させるために。
しかし、子どもだけでは国境が越えられない。資金もない。ダニエルとローレンは老紳士ジュリアスに行動を共にしてくれるよう頼み込む。
資金づくりと国境越え…。3人のサンセットキスへの旅が始まる。
〜あらすじラスト結末まで
ローレンの家出が両親にばれ、警察がジュリアスの存在を知ると事態は急転する。ジュリアスは名うてのスリだったのだ。
イタリア・ヴェローナでジュリアスは自分がスリだったことをあかし、ダニエルとローレンは消沈。サンセットキス伝説を諦めかける。
しかしジュリアスは言う「サンセットキスは伝説に過ぎないかもしれない。しかし伝説とはね、普通の人がとてつもない事をやりとげたことが伝説になるんだよ。」
ダニエルとローレンはジュリアスに感謝の気持ちを伝え、ため息橋を目指す。
ジュリアスは警察に自首する。しかし、ダニエルとローレンの居所を頑として言わない。
ベニスの路地、迫る追って(警察・家族)を巻きながら、走るダニエルとローレン。
夕暮れは迫っている。
ゴンドラを奪い、ため息橋を目指すふたり。
夕暮れのベニス、教会の鐘が響きわたる中、2人はため息橋の真下に静かにゴンドラで滑り込み、サンセットキスを交し、永遠の愛を誓い合う。
場面変わってパリ。
ローレンがアメリカに立つ日、ダニエルが見送りにやってくる。そばのベンチにはジュリアスが座っている。
ダニエルと言葉を交わし、ジュリアスに飛び込むように抱きつくローレン。
ローレンを乗せた車が走り出した。ダニエルはどこまでもクルマを追いかけてゆく…
エンドロール。
『リトルロマンス』感想〜感動の1時間48分
冒頭はなんと、あの名作映画からスタート!
ラブロマンス映画は星の数ほどありますが、そんな映画と『リトルロマンス』が違う点、それは全編に「映画へのラブ」が流れていることです。
主人公の少年ダニエルが映画館でニコニコしながら映画を見ているシーンから始まりますが、その映画が『明日に向かって撃て!』。
そう、ジョージロイヒル監督自身の傑作を主人公が見ている、、、そのクローズアップでスタートするのです。昭和世代の映画ファンはここで間違いなく「ヤラレタ!」となります。
多分、ぼくのサイトを読んでくれているあなたは、絶対映画好きに違いありません。
映画好きなら、オールドムービーを見たことがない若い映画ファンでも、そのオープニングにシビれるのではないでしょうか。
徹底した映画ファンサービス
さらには『勇気ある追跡』のジョンウェイン、『脱出』のハンフリー・ボガード、しまいには『スティング』(やはりジョージロイヒル監督作品)と、映画名作の映画館内シーンがストーリーを回す小道具に使われます。
映画オールドファンはスマイルが止まらない仕掛けがあちこちにさし挟まれてて、素敵すぎます。
といっても、ただ名作を流しているだけではなくて、ちゃんと脚本で「シーンがなかったら繋がっていかない」ように練られているところがすごいです。
主役が天才少年少女
さて、そんな映画ラブに溢れてい流ことばかり強調していると、ヒキますね。
そんなこと知らずとも『リトルロマンス』は楽しめます。
主人公のダニエルとローレンは二人揃ってIQが高い天才少年少女という設定。これが周囲との間にチグハグをうみ、笑いを誘いつつ、涙へと誘うのです。
少年少女ラブロマンスとはいえ、そんな二人の会話が粋だったりクスッとなったり。またダニエルとローレンそれぞれの仲良し友達とのズレ、間合いが最高に素敵に演出されています。
ローレンの親友が、ローレンとは真逆のちょっとトロくて気の良いコだったり、ダニエルの友達が映画館のセガレでこまっしゃくれた気のいいヤツだったり…そんなところも見どころです。
ダニエルとローレンは、そんなふうに、クラスではちょっと浮いている二人なんですね。
その二人のそれぞれの親=ダニエルの父はしがないタクシー運転手。ローレンの両親は富裕層〜母は女優、父は実業家=も、関係がきちんと描かれ、後半ストーリーに生きてきます。
二人に絡むローレンス・オリビエの絶妙感
『「リトルロマンス』前半は、一風変わったそん二人が恋に落ち、といっても13歳ですから、それは可愛らしい恋の道です。(しかし、映画小僧ダニエルのキャラがいい!)
そんな二人の前に老紳士ジュリアスが現れますが、その役を演じているのが名優ローレンス・オリビエ。一見老紳士だけど実はスリの達人で刑務所ぐらしの過去もある…そんな彼がダニエルとローレンにくっつくんですから、そのくだりは見ものです。
ジュリアスが二人に話して聞かせるのは『ベニスの「ため息橋」の下でサンセットキスをした二人は永遠に結ばれる』という伝説です。
「サンセットキスは伝説に過ぎないかもしれない。しかし伝説とはね、普通の人がとてつもない事をやりとげたことが伝説になるんだよ。」
ジュリアスのその言葉が後半への道しるべとなります。「伝説とは普通の人がとてつもない事をやりとげたこと」…なんと素敵なセリフ!
ストーリー後半、ローレンの父母(不仲でもある)はパリを去り、アメリカへ行くことになります。
「離れ離れになるのは冗談じゃない!」と、ダニエルとローレンは家出。サンセットキスのベニス「ため息橋」を目指すのです。
この後半が陳腐なラブストーリー逃避行にならなかったのは、ひとえに丁寧な脚本、そしてローレンス・オリビエの名演技あってこそ、です。
『リトルロマンス』ぼくの評価〜サンセットキスへの道
『リトルロマンス』のクライマックスは、二人のために旅の同行を快諾したジュリアスが指名手配され、3人が警察に追われます。追いつ追われつの急展開、それをジョージ・ロイ・ヒル監督はユーモアとペーソス交えての名演出で魅せます。
ため息橋までのラストたたみかけ、そしてエンディングは、これは「ぜひ、見てください!」としかいえません。
「子どもが全力で走るクライマックスの映画に駄作はない」と映画好きな友人が言いましたが。まさしく!のエンディングです。
ラブストーリーの傑作ムービー、殿堂入り決定です。
と、ここまで書いておいてナンですが、2024年の7月時点、残念ながら配信されていません。観るならブルーレイかDVDをゲットするしかなさそうです。
あ、最後になりましたが、上映時間も1時間48分とちょうど良い!!最近むやみに長い映画が多いので….
ぼくにとっての『リトルロマンス』
実はぼくにとって『リトルロマンス』は特別な映画です。
公開の1979年当時、ぼくは映画好きな高校生一年生でした。ちょくちょく映画館には通っていましたが、さらに背伸びがしたかったんでしょう。映画評論家淀川長治さんが会長をしていた(と記憶している)「映画友の会」に入会しました。
住んでいた岩手の盛岡に「盛岡名劇」という名画座がありまして、その映画館では「映画友の会」の試写会がよく上映されていたのです。
年会費を払ったぼくに届いた「入会特典の試写会プレゼント」が、この『リトルロマンス』でした。
『リトルロマンス』試写会当日、映画館「盛岡名劇」にき、座席に座り周りを見回すと会員は、ほぼオトナ。
映画好きオトナにまじって『リトルロマンス』を観たことで、なんだか一人前になったような、ようこそ映画の世界へ!って言われたような、そんな気がしたのを覚えています。
『リトルロマンス』を観終わって、多分、ぼくは背伸びしていた自分を、映画マニアの主人公ダニエルに投影していたんだと思います。
それからは、ダニエルのごとく映画館通いがペースアップ。ほぼ週イチとなりました。(高校生だったので入場料安い名画座通いが精一杯だったけど)
ぼくにとって『リトルロマンス』は、映画の世界へ背中押してくれた一本といってもいいのです。
『リトルロマンス』を再度改めて観たのは、それから40年以上経っての世間のあれこれ知ったあとのこと。
それでも感動再びでしたので、やっぱりぼくにとっては忘れられない名画です。
『リトルロマンス』スタッフ・キャスト
スタッフ
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
製作:イヴ・ルッセ・ルアール ロバート・L・クロウフォード
脚本:アラン・バーンズ
撮影:ピエール・ウィリアム・グレン
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
キャスト
ダニエル/テロニアス・ベルナール
ローレン/ダイアン・レイン
ジュリアス/ローレンス・オリヴィエ
リチャード/アーサー・ヒル
ケイ/サリー・ケラーマン
ジョージ/デヴィッド・デュークス
ナタリー/アシュビー・センプル
ロンデ/グラハム・フレッチャー=クック
ボブ/アンドリュー・ダンカン
ジャネット/クローデット・サザーランド
ルクレール警部/ジャック・モーリー
サントラの音楽担当作曲家・ジョルジュ・ドルリューのこと
アカデミー音楽賞を受賞したジョルジュ・ドルリュー(Georges Delerue, 1925年3月12日 – 1992年3月10日)は、フランスの作曲家です。
フランソワ・トリュフォー監督の映画音楽を、多数作曲しています。(作曲した映画の総本数は250本以上)
トリュフォー監督以外にも、アラン・レネ監督『二十四時間の情事』、ジャン=リュック・ゴダール監督『軽蔑』、フレッド・ジンネマン監督『ジャッカルの日』、オリバー・ストーン監督『プラトーン』など名匠たちの映画音楽をゾロゾロ書いています。
フランスの映画音楽界の至宝のひとりですね。
コメント