実話映画『マウトハウゼンの写真家』ネタバレ解説・あらすじ・感想・評価レビュー|収容所裏歴史まで

実話・リアリティ

こんにちは!映画好き絵描きのタクです。今回取り上げる映画は『マウトハウゼンの写真家』、いわゆる「ナチ収容所モノ」です。

舞台は、第二次世界大戦にオーストリアに実在した「マウトハウゼン強制収容所」です。この映画は歴史的事実を元に作られました。

ナチスドイツの過酷な仕打ちと、フィルムネガに焼き付けられた真実を世に知らしめようとした人々の物語です。(スペイン映画:2018年制作)




スペイン人が大勢収容されていたマウトハウゼンの事実は、日本人にはあまり知られていなので、映画を理解する一助になれば、と、ヨーロッパの裏歴史も調べてみました。

それでは、『マウトハウゼンの写真家』をレビューしてみます。






『マウトハウゼンの写真家』のあらすじは?

かつて仕立て屋だったスペイン人ボシュは、国籍を剥奪され、ナチスドイツが非道の限りを尽くしている「マウトハウゼン強制収容所」に送られていた。

写真の腕を買われ、ナチスの写真担当将官の助手として労働に従事しているボシュ。

撮影と現像の腕が立つ彼は、他の将官からも目をかけられるが、ある時、ナチスの蛮行が撮られたネガフィルムを見つけ、仲間たちとともに盗み出す。

収容所での残虐な行為が記録されたネガフィルム。迫害が強まる中、ボシュたちはそのネガフィルムを白日の元にさらすことができるのか

第二次世界大戦にオーストリアに実際に存在した「マウトハウゼン強制収容所」が舞台。以下、ネタバレとなりますが、事実に基づいたストーリーですので、記しておきます。

(知りたくない方はスルーしてくださいね。)

ラストは大戦終了まじか、奇跡のようなタイミングで収容所は解放、エンディングとなります。




『マウトハウゼンの写真家』よくわからなかったことの解説

収容所のこと

ポーランドのアウシュビッツ(ポーランド語読みでオシフェンチム)強制収容所や、ドイツのダッハウ強制収容所は、誰でも聞いたことがあると思います。

『マウトハウゼンの写真家』で、ぼくはマウトハウゼンという名前を、はじめて知りました。

で、調べてみました。

マウトハウゼン、その場所はオーストリアです。

ウイーンの西、そうですね、ざっと3〜400キロくらいのところにあります。チェコ国境にほど近い。

花崗岩砕石場があり、その石切りと運搬のために作られた収容所だったようです。

収容されていたのは、スペイン内戦からフランスに逃れた難民、犯罪者、反社会的とされた人々。

数あるナチスドイツ収容所の中で、もっとも過酷な労働が課せられたらしいです。

マウトハウゼンに連れてこられた人たちに課された残酷なまでに過酷な日々が、映画では描かれます。




「夜と霧指令」ってなんだろう?

『マウトハウゼンの写真家』のセリフの中に「夜と霧」指令という言葉が出てきまず。本の『夜と霧』は有名ですが、指令は知りませんでした。なので、これも調べてみました。

「夜と霧指令」はドイツの総統アドルフヒトラーが発した命令です。

内容は、「ライヒ及び占領地における軍に対する犯罪の訴追のための規則」。なんだか固いですね。

ライヒという言葉は、国家、国土、統括している領土、といった漠然としたイメージを表すドイツ語。wikipediaによると、

ドイツ語では「国家」を表す言葉として「シュタート(Staat、複数形:Staaten)」も存在するが、微妙に用法は異なる。しばしば「帝国」とも邦訳されるが、ライヒはドイツの重層性に根差した、弾力性のある複雑な政治体を的確に表現するための名辞で、帝国とも王国とも人民とも訳すことのできない微妙かつ独特な概念である。

とあります。

要は、「ナチスドイツ帝国に対して、反政治的、社会的に問題起こす人、起こしそうな人は、捕らえて収容所に送れ」という法律のようです。

この指令は、発令後にどんどん内容が広がって、ついには「捕らえた人のその後の情報は明かさなくて良い」とまでなります。夫が捕らえられて、どこへ連れ去られたか、全くわからない、、、そんなことになっていったようです。

まさに「捕らえられ、夜の霧の如く、消え去っていった人々」がたくさんいたわけですね。

その捕らえられた人たちの、行き先の一つが『マウトハウゼン強制収容所』だったわけです。

ちなみに歴史的名著にヴィクトル・フランクルの『夜と霧』があります。アウシュビッツ収容所に囚われ、奇跡的に生還した心理学者が書いた本です。

これ、絶対おすすめです。




なんで「スペイン人」がドイツの強制収容所にいたんだろう?

『マウトハウゼンの写真家』で『なんで「スペイン人」がドイツの強制収容所にいたんだろう?』という素朴な疑問がありました。

映画の冒頭でサラッと説明はされるのですが、イマイチピンときません。なので、これも調べました。要は、以下のような流れだったようです↓

第二次世界大戦に先立つ1936年、スペインではフランコ将軍が共和制政府を倒そうと軍を上げ、スペイン内乱になります。フランコ側はドイツ・イタリアの援助を受けます。結果反乱は成功、フランコ独裁が始まり、粛清が始まります。映画に登場するスペイン人は、そんなフランコ独裁から隣国フランスへと逃げた人たちだったんですね。

スペインを捨て難民となったスペイン人は、フランスに逃れました。

しかし、1941年、ドイツがフランスを占領。フランスに逃れていた難民たちは、ナチスドイツに捕らえられて、国籍を抹消され、強制労働のために収容所に送られた、、、ということのようです。

ヨーロッパはご存知の通り、地続きです。難民がヨーロッパ隣国に逃れ、追い討ちを描けるように戦争が拡大し、領土マップが変わっていったことによる悲劇でもあったんですね。




『マウトハウゼンの写真家』ぼくの評価は?

「真実など存在しない。視点こそ、すべてだ」

『マウトハウゼンの写真家』の劇中、ドイツ軍軍人の写真家のセリフに「真実など存在しない。視点こそ、すべてだ」という言葉があります。

ぼくもこの言葉、普段なら「まったく、そうだよね」と、頷きます。

でも、ここで注意。映画の中では、ドイツ軍人に言わせている。

たぶん、ドイツ軍人の発した意味は、決して哲学的な意味ではなく、「レンズを通し写真に写ったものこそが全てだ。フィルムに焼き付けられていないものは、存在しないも同然だ」と、無常で冷徹な意味で言わせたんだと思います。

同じワードでも、ナチスドイツ側が言うか、迫害されている側に言わせるか、で、全く意味が違ってきます。

ナチスドイツの将官たちは、ネガを焼却させます。

収容所での残虐な仕打ちを、ネガ焼却することで「なかったこと」にしようとしたわけです。

ぼくは「セリフ、言葉(翻訳)の理解って、本当に難しいな」と、見終わった後、思いました。




どうもちぐはぐな印象

『マウトハウゼンの写真家』は、実話を元に描かれた映画です。しかし、どうも全体通してチグハグな印象を受けました。

どういうことかというと、ところどころで、「映画のトーン」が変わっている。

例えば、前半は収容所内のひどい状況が結構淡々と描かれます。悲惨な実態を観客に伝える必要がありますから、それはそれで良いでしょう

ところが、盗んだフィルムを隠すシーンで、なぜか映画「大脱走」的な妙に明るいノリに変わってしまう。音楽までがマーチ的なノリです。ここでぼくはくじかれました。

また、冒頭から一人の少年が大切な役回りで登場しますが、今ひとつ存在感が薄いままラストまで進んでしまう。

さらにはネタバレになりますが、エンドロールに、当時撮られた写真が映し出されます。これが非常に念押し解説的。

う~ん、取り上げたテーマは良いんだけど、、、ちょっとチグハグ感が否めず、残念でした。

自分が恥ずかしくなったことについて

『マウトハウゼンの写真家』を観ていて、自分が恥ずかしくなったことがありました。

それは、登場人物たちが頭を刈られて同じ収容服を着せられると、「誰が誰だか、ワカンナイよ」となったのです。主人公はわかるんだけど、悲しいかな、仲間たちの顔がなかなかインプットされないのでした。

例えて言うなら、「黒人が大勢いると、皆、同じに見えてしまうんだよね、、、」って、あれです。白人から見たらアジア人が皆同じ顔に見えてしまう…とも言いますが、それと一緒かも。




『マウトハウゼンの写真家』戦争の残酷さは戦場だけじゃない

とはいえ、『マウトハウゼンの写真家』は凄惨な戦争の裏側を見せてくれた映画です。若い世代の方に見て欲しい映画だなあ、と思いました。

「人間って、国家って、戦場の後ろ側で、こんな残虐非道なことまでしてしまうものなんだ、、、」と教えてくれる映画でした。

『マウトハウゼンの写真家』配信

Netflixで配信中です。



『マウトハウゼンの写真家』スタッフ・キャスト

監督/マル・タルガローナ 脚本/ロジェール・ダネス アルフレッド・ペレス=ファルガス

出演/マリオ・カサス、リシャルト・ファン・ヴァイデン、アライン・エルナンデス




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