『最後の決闘裁判』は14世紀フランスの騎士の時代が舞台です。一人の領主の、妻の強姦事件から決闘に至った歴史的事実をマット・デイモンとベン・アフレックがシナリオ化し、名匠リドリー。スコットが『最後の決闘裁判』として映画化しました。中世舞台の『羅生門』といっても良いかもしれません。
リドリー・スコット監督の歴史モノには定評があります。『グラディエーター』『エクソダス 神と王』そして2023年12月には新作『ナポレオン』が公開を控えています。
1339〜1453年の長きに渡ってフランスとイギリスの間で戦われた百年戦争の時代を舞台背景に、騎士と妻、従騎士と領主、そして国王までもが絡み合う疑心暗鬼スリラーでもあります。
「一体誰が本当のことを言っているのか???」
迫力ある戦場シーンをクロスオーバーさせながらの疑心暗鬼の2時間半。『最後の決闘裁判』をレビューしてみます。
『最後の決闘裁判』予告編
レビューするその前に
1386年、中世フランス。フランス史上、文字通り最後の「決闘裁判」を基にしたシナリオです。
物語の核となる主な登場人物は、騎士カルージュ(マット・デイモン)。その妻マルグリット(ジョディ・カマー)。そしてカルージュの旧友の従騎士ル・グリ(アダム・ドライバー)の3人。
妻マルグリットはル・グリにレイプされたと訴えますが、ル・グリはレイプではなかったと主張。ドラマはカルージュ、ル・グリ、マルグリットそれぞれの立場から同じシーンが語られ、それぞれが違った真実を見せます。
果たして誰の言っていることが正しいのか?
真実のありかは裁判に持ち込まれ、カルージュとル・グリによる生死を懸けた「決闘」で決まることになります。
『最後の決闘裁判』のネタバレありの感想
リドリースコットの歴史絵巻として楽しむ
映画のタイトルから裁判劇の中世版かな、、と思って観た『最後の決闘裁判』でしたが、フタを開けたら嬉しい勘違い。
冒頭からずしっと重量感のある中世甲冑をジャラジャラと体にまとうシーンから始まります。まさに歴史スペクタクル系のオープニングです。
嬉しいことに「さすがは歴史合戦絵巻天下一品リドリー・スコット」節でのスタートでありました。
前半早くも、『グラディエーター』彷彿とさせる怒涛のカメラワークによる百年戦争合戦シーンもあります。つかみはオッケーとは言ったものです。ぼくは14世紀の戦場に一気に叩き込まれました。
中世フランスの光と影
美術の美しさもリドリー・スコットのこだわり抜くところですが、中世フランスを再現した美しい風景、生活シーンも見事。さしずめ「コンスタブル」の絵画が映画になったかのようです。
美しさは説得力ですね。
そもそもヨーロッパ人の「中世」や「騎士」に対する憧れはハンパないです。
ヨーロッパを旅するとわかりますが、「中世騎士のミュージアム」みたいな施設があっちこっちにあります。
リドリー・スコットは英国人です。おまけに美術学校卒。とくれば、中世を美しく再現する=光と影で空気を表現することへ強いこだわりを持っていて当然ですよね。
その想いが見事に映像に結ばれていました。ぼくはため息をつきっぱなしでした。
真実は藪の中
さて、ここからは映像や時代への感想ではなく、「制作陣が伝えたかったメッセージ」についてのぼくの感想を書いていきますね。
『最後の決闘裁判』の映画は、一つのシチュエーションを「3人それぞれ視点と心のありよう」で描くという手法をとっています。
最初は騎士カルージュの視点でドラマが始まります。
戦場でのル・グリとの関係や、妻との関係、レイプへの対応が、カルージュ目線(主張)で語られるわけです。
次なる視点は、ル・グリの視点。先に映し出されたカルージュドラマが微妙に変わってきます。また、いくつかのドラマが追加されます。
そして最後がマルグリット視点です。カルージュドラマとル・グリドラマと同じシークエンスが語られますが、マルグリットの視点で描かれていますので、これがまた違うドラマとなっていくのです。
ポイントはこの「視点」と「語られる内容の違い」です。
そういえば、似たような映画がかつてありました。そう、黒澤明監督の『羅生門』です。(原作は芥川龍之介の小説「藪の中」)
『羅生門』は一つの出来事を登場人物四人が語ると、一つの出来事のはずが、それぞれ別の話になっている、、、という映画でした。
『最後の決闘裁判』は、中世版の事実を元にした、まさにそれです。
映画ではそれぞれの幕が開く前に「カルージュの真実」、「ル・グリの真実」、「マルグリットの真実」とタイトルが入ります。
それぞれ英語で「Truth」と書かれています。「Fact」ではありません。真実と事実の違い。これは大きい…。
出来事って、実は見る立場や、寄って立つ主義で、実は真実が変わって見えてきます。
わかりやすく、モノに例えてみましょう。
目の前に切られたチーズがあったとします。
チーズを真横から見た人は「あれは長方形だった」と言います。
真上から見た人は「いや、三角形だった」と言うでしょう。
しかし斜めから見た人は「いえいえ、三角に切られた立体だった」と主張します。
それぞれの見る位置から考えるならば、それぞれが真実なのでしょう。
このドラマの本質は、そのチーズの例えのような気がします。
「一つの事柄でも、考え方や思い込みでガラッと変わって見えるんだよ…真実なんて実はどこにもないんだ」
それがこの映画が伝えたかったことなのでは、、、と、ぼくは思いました。
ネタバレになりますが、ラスト決闘が終わり、敗者は無慈悲なまでにボロボロに逆さづりでさらせれます。
一方勝者は決闘を観ていた大衆から声援を送られ、馬上の人となり大衆をかき分けるように進みます。
こう書くと、拍手で終わるようなラストなのかな、と思われるかもしれません。しかしそんな感覚にはならない…。
観ているぼくはカタルシスが全くありませんでした。見事「真実は藪の中」だったのです。
『最後の決闘裁判』の評価
感想にも書きましたが、「真実」のあやうさや、出来事は視点によってどれだけ異なって見えるのか?ということを考えさせられた映画でした。
また、レイプという性犯罪に苦しむ女性を中世という時代の法廷に置き、リアルな(答えるに辛い)言葉の応酬を再現した意義は、今、大きいと思います。
騎士の魅力、時代の持つ魅力を十二分に輝かせつつ、重いテーマに切り込んだ制作陣に拍手を送ります。
『最後の決闘裁判』あらすじを簡単に紹介
あらすじを簡単に書いておきます。
舞台は14世紀のフランス。騎士カルージュ(マット・デイモン)は、妻マルグリット(ジョディ・カマー)が、従騎士ル・グリ(アダムド・ライバー)にレイプされたと訴える。
だが、従騎士ル・グリはその訴えを、事実とは違う、と言い通す。
妻マルグリッドも法廷に立ち証言するのだが、その証言はカルージュともル・グリとも異なるものだった。
結果は決闘で勝利したものの証言が真実となることになり、裁定は決闘場へと投げ込まれる。
馬上で激しく槍を交えるカルージュとル・グリ。
果たして決闘の結末は?
…というストーリーです。
『最後の決闘裁判』あらすじネタバレラスト(閲覧注意)
以下はネタバレラストです。映画を見る方は閲覧禁止!
決闘は騎士カルージュ(マット・デイモン)の勝利となります。
斃れたル・グリ(アダムド・ライバー)は逆さに吊り下げられます。
興奮した大衆が声援を送る中、勝者カルージュは馬に乗り意気揚々。
マルグリット(ジョディ・カマー)を従えてかルージュは民衆をかき分けていきます。
しかし、マルグリットのその顔には笑顔はありませんでした。
『最後の決闘裁判』配信先は?
Prime Videoで無料配信中(2023/9月現在)
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