こんにちは!映画好き絵描きのタクです。今回取り上げる映画は、監督サム・ペキンパー、主演ジェームス・コバーンほか、マクシミリアン・シェル、デビッド・ワーナー、ジェームズ・メイソンという名脇役陣で撮られた、それまでの戦争映画の常識を変えた『戦争のはらわた』です。
「はらわた」タイトルでドン引きする方もいると思います。が、別にホラー戦争映画ではありません。
原題は『 Cross of Iron』といいます。訳すなら「鉄十字章」です。どこにも「はらわた」英単語は見当たりません。たぶん当時の配給会社が、当時のホラームービー流行の流れでつけちゃったのでしょう。
ちなみに「鉄十字章」はドイツ軍の勲章のこと。そう、『戦争のはらわた』はドイツ兵が主人公という、稀有な映画です。
舞台は第二次世界大戦東部戦線。わかりやすく言えば、ドイツがソ連に攻め入ったドイツから見て東側の戦場です。凄まじい塹壕戦が展開されます。ぼくの中ではベストムービーの一本です。
あらすじ踏まえて塹壕戦を解説しつつ、感想までをレビューします。
【戦争のはらわた】解説~戦争映画を変えた一本~
よく「戦争映画を変えた一本」として取り上げられる映画があります。
スティーブン・スピルバーグ監督作品『プライベートライアン』はその代表格ですね。
『プライベート・ライアン』は戦争映画というジャンルを越えて、ぼくの「繰り返し鑑賞頻度ベストスリー」に入る映画です。
でも、まてよ、戦場のリアリティ、おぞましさをスクリーンに叩きつけたのは、こっちの方が先だったんじゃないか?…そう思う一本があります。
戦争映画を根っこから変える先陣きったその映画は、そう、今回取り上げているサム・ペキンパー監督の『戦争のはらわた』です。
公開年を比べると、『プライベートライアン』が公開されたのは1999年。
一方『戦争のはらわた』はそれに先立つこと20年以上前の1977年に公開されています。
ぼくが『戦争の…』はじめて観たのは高校生の時。週一くらいで映画館に通っていた頃でしたが、この映画は、好きな女の子にほっぺを張られたくらいの衝撃でした。(はられたことないけど)
ペキンパー監督はそれまで「ガルシアの首」や「わらの犬」を観て、すでに好きな監督のひとりになっていました。
が、それでも、この映画には、思い切り、張られた。
バイオレンスのペキンパーと言われているくらいですから、戦場描写は当然すごいのですが、舞台設定と視点が新しかったのです。
だって、舞台は第二次世界大戦の東部戦線。2023年現在の地図で見るならウクライナの上と右側あたりといえばわかりやすいですね。
そして、主人公たちは、なんとなんと、それまでのハリウッド戦争映画では敵役でしかなかった、ドイツ兵(!)なのです。
【戦争のはらわた】~あらすじ~ネタバレあり
時代は第二次世界大戦の東部戦線。たぶん1944年頃だろう。
ドイツ軍とソ連軍がぶつかり合う泥まみれの最前線が舞台だ。
現場叩き上げのドイツ軍・シュタイナー伍長(ジェームズ・コバーン)は、その部下たちを率い、劣勢の塹壕戦をくぐり抜けていた。
そんなところへ、プロイセン軍人の血筋を持つシュトランスキー大尉(マクシミリアン・シェル)が上官として着任する。
隙のない磨き上げられた軍服の大尉と、泥だらけ汗まみれの戦闘服の伍長。
両者は水と油だ。
大尉の鉄十字勲章への渇望が、伍長と反目。
大尉のねじれたプライドは、ついには伍長とその小隊をなきものにせんと、敵地に置き去りにする策略を取る。
敵地に残された伍長の小隊。四面楚歌のなか次々と斃れゆく部下たち。
はたして伍長と小隊の運命は??
…という感じです。
悲劇は、ありきたりの成り行きでは終わりません。監督が「滅びの美学」の異名を持つサムペキンパーです。ペキンパー流のバイオレンスの美学が光りまくり、ラストシーンまで引っ張ります。
ラスト10分、クライマックスシーンは見ものです。どんな戦争映画にも観られないメッセージが込められ、混乱した最前線の戦闘シーンは戦争映画の傑作『プライベートライアン』に負けるとも劣らず、だと思います。
あらすじ・ラストまで〜ネタバレ閲覧注意!
以下はネタバレとなります。映画を見たい方は、読まずにスルーしてください。
敵中突破してきたシュタイナーの小隊は味方の塹壕の手前までようやく辿り着く。
助かったか、、、あと一歩だ。
しかし、味方陣地へ向かったとしても、彼らが着ている軍服は敵中突破でソ連軍を欺くために奪った敵の軍服なのだ。
そのまま進めば敵に間違えられ射殺は必至。
味方陣地へ無事たどり着くため、シュタイナーたちは合言葉を必死に思い出す。
「合言葉はなんだったかな?…そうだ『境界線』だ」。
小隊は大声で『境界線だ!境界線を忘れるな!!』と叫びながら味方陣地へ近づく。
しかし、味方の機関銃が火を吹く。シュタイナー伍長の小隊は部下2人を残して味方の機関銃に撃ち殺される。
機関銃手が引き金を引いた理由は、シュトランスキー大尉の命令だったのだ。
辛くも生き残ったシュタイナーはシュトランスキーを追い詰め、迫り来るソ連軍に立ち向かっていく兵卒たちの元へと強引に引きずり出す。
激戦に右も左もわからなく慌てふためくシュトランスキー。最後、シュタイナーのシュトランスキーへの高笑いで映画は終わる。
あらすじ結末解説〜シュタイナーらが叫ぶ合言葉は?
まずは、ちょっと結末ネタバレになりますが、ネットで『戦争のはらわた』のクライマックスで叫ばれる「合言葉」が気になるかた、多いようなので、その解説から。
シュタイナー小隊が敵中突破する後半のヤマ場があります。
味方であるドイツ軍陣地に辿り着く寸前、誤射をもらわないためにシュタイナー伍長ら前もって無線で「今からそっちへ行くから撃つなよ」と打電し、合言葉を決めるのです。
その合言葉は『境界線』です。
いよいよあと味方陣地まで数百メートルまで帰還し、
「合言葉はなんだったかな…?そうだ、『境界線』だ」
とシュタイナーが呟きます。
その後、彼らは「『境界線』だ!『境界線』を忘れるな!」と叫びながら自軍の陣地へ歩き出すのです。
しかし、その歩みは死への行進となってしまいます。
その合言葉『境界線』は皮肉にも「生と死の境界線」であることも暗示しているんですね。
『戦争のはらわた』ぼくの評価~ここがスゴイ~
それでは、ここからは『戦争のはらわた』ぼくの独断考察です。
1.ハリウッド映画なのにドイツ兵主人公という特異性
「それまでのハリウッド戦争映画では悪役、負け役として描かれてきたドイツ兵を主人公に立てるといる設定自体がスゴイ」と、先に書きました。
主役のシュタイナー伍長を演ずるジェームズ・コバーン以外の小隊兵士役は、実は全員ドイツの俳優が演じています。
ジェームズ・コバーンは当時すでにハリウッドスター俳優の仲間入りをしています。
なので、スターオーラが邪魔してドイツ兵っぽく見えない….それは仕方ないでしょう。
ですが周りをドイツ人俳優で固めたことで、映画にリアリティを生んでいます。やはり育った国が顔立ちに与える「何か」ってあると感じます。
また、カタキ役となるストランスキー大尉を、ドイツ出身の名優マクシミリアン・シェルが演じていることも、観客をドイツ軍陣地に投げ込むことに成功しています。
2.塹壕内のリアリティ〜
第二次大戦の塹壕戦をリアルに描いた点も『戦争のはらわた』は他の映画と違っていました。
ぼくは実際の戦争も塹壕戦も知りませんが、映画が終わると自分の身体中もホコリにまみれているような感覚になり、擬似体験をさせられたような感じです。
トンネルになった壕の周囲に榴弾が炸裂すると、壕内でパラパラと土が降る音に兵士がぴくりと肩をすくめる…いった表現もドキッとさせられます。
塹壕での白兵戦の凄まじさは特筆モノです。
しかしなぜすごいかというと、その塹壕内の兵士たちの日常生活も丁寧に描かれているからこそ、でしょう。
何日も風呂など入れない塹壕生活。
そのすえた空気までがスクリーンから漂ってきます。
3.第二次世界大戦の塹壕戦〜
塹壕戦を描いた映画といえば、『誓い』『西部戦線異常なし』『1914』あたりがパッと思い浮かびますが、どれも舞台は第一次世界大戦。
第一次大戦から20年後、殺戮兵器の進化で、悲惨さと戦闘の突発性がさらに増したのが、第二次世界大戦です。
第二次世界大戦を舞台にした塹壕戦映画は、他にあるかもしれないけど、パッと思い当たりません。それほどまでに『戦争のはらわた』の塹壕戦のインパクトは強いです。
この記事を書いている今、ロシアがウクライナを攻め、市街戦はもとより、最前線では塹壕戦も展開されています。
ぼくは戦後の生まれなので、戦争を知りません。
実際に塹壕戦を経験したことなど、もちろんない。
そんなぼくが、ウクライナ戦争のニュースに「塹壕戦」という言葉を聞くたびに、脳裏に浮かぶのは、『戦争のはらわた』のいくつものシーンです。
あの劇中に実際に叩き込まれたら…と考えるだけで、戦争のクレイジーさ、無意味さ、命の儚さ、無慈悲さ、ありとあらゆるマイナスを思います。
『戦争のはらわた』オープン・エンディング
ネタバレになりますが、『戦争のはらわた』のエンディングは、開放式とも言われる「オープン・エンディング」になっています。
オープン・エンディングって、「登場人物がその後どうなったかを示さない」幕の閉じ方を言います。
戦争映画ではエンディングを「スッキリ」させたかったり、「こんな悲惨なことはダメだよね」、あるいは「ヒーローっていないんですよ」などどこか説教にも似たエンディングになりがちです。
しかし、『戦争のはらわた』はその後、主人公と敵役が死んだのか?生き残ったのか?を一歳明かさずに終わります。
そのことで、改めて「一兵士の命のゆく末など、味方敵を越えて意味をなさないのが戦争だ」というメッセージがぼくは突きつけられました。
オープン・エンディングの戦争映画は、『戦争のはらわた』ぼくは思い出せません。
そんな意味でも、やっぱり突き抜けた戦争映画の傑作、と、ぼくは思っています。
『戦争のはらわた』はノンヒーロー・リアル系戦争映画の先駆け
戦争映画を大きく分類すると、「賛美はしとらんけど、ヒーローもの」と「冒険小説ベースのアドベンチャーもの」、そして「ノンヒーローどこまでもリアル系」の3つに分かれます。最近はリアル系戦争映画が増えてきていますね。
ジェームズ・コバーン演じる主役は決してヒーローではありません。部下たちも、上官たちもそう。「戦場には英雄なんていないんだ映画」が昨今多くなっていますが、その先駆けとなった一本だと思います。
この映画は繰り返し観てますが、その度に思うのは、「バイオレンスの巨匠ペキンパー、戦争最前線を撮らせたらやっぱすごいわ」
「美学さえ感じるスローモーション」と「音」もまた他の映画にはないのです。
その話も長くなっちゃいますので、別記事、「その2」に続きます。
『戦争のはらわた』配信は?
「U-NEXT」で見放題です
「DMM TV」でレンタルできます。
他配信サービスでは視聴できないようです。
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