映画界の巨人と言われる監督は多いですけど、スリラー・ファンタジー・SFはもとより、シリアスな歴史物からミュージカルまでと、スティーブン・スピルバーグほど作品ジャンルが幅広い監督はいません。
そんなスティーブン・スピルバーグ監督の実像に迫ったドキュメントムービー『スピルバーグ!(原題Spielberg)』をHBOが制作、U-NEXTで配信されています。
「ムービーダイアリーズ」では監督自身が自らの若き時代を描いた『フェイブルマンズ』を取り上げました。
『フェイブルマンズ』公開からさほど間をおかずに配信された『スピルバーグ!』です。
表現者・芸術家としての監督の実像を追ったドキュメントをレビューします。
『スピルバーグ!』配信先
『スピルバーグ!』レビュー
スピルバーグ監督作品クロニクルです
ぼくが映画の面白さを知ったのは中学の頃。ちょうどJAWSが公開され他あたりです。
そんなわけでスティーブン・スピルバーグ監督の『激突』から最新作『フェイブルマンズ』までの公開年は、ぼく自身の映画ラブ人生に、ほぼ丸かぶり。
スピルバーグ作品にワクワクしながらオトナになったぼく、、、といっても良いです。
同時に還暦過ぎた今もなお生きる支えとなっている作品もあるから、やっぱりすごい監督だと思っています。
『スピルバーグ!』のドキュメントはそんな彼の作品を、ほぼ年代順に紹介していきます。
さらにはスピルバーグ監督へのインタビューを通して、撮影裏話やエピソード、監督自身の言葉で語る映画作りへの思いまで知ることができるという、ゼイタクドキュメント。
スピルバーグ映画って、スクリーンを通してハラハラしたりワクワクしたり、シリアスになったり、問題提起を受けたりといろ色ですが、「なぜ、そんな気持ちにさせられるのか?」
その「なぜ?」をこの映画は解き明かしてくれます。
デビューからわずか4本で超ヒットメイカーとなった彼が、その後、酷評に苦しんだり、自分自身のユダヤ・アイデンティティへの疑問、そして『フェイブルマンズ』にも描かれていたスピルバーグ一家の崩壊。
「なぜ、観客が彼の映画にこれほどまで一喜一憂するのか?」の答えが、薄皮を一枚一枚剥いでいくように現れてきます。
それはスピルバーグ監督の心の苦しみ、葛藤を映画制作に投影した結果だったのです。
その薄皮のエッセンスが全ての映画に込められていたことが、よくわかりました。
スピルバーグ監督を証言する面々
スピルバーグ監督が世に出てきたのは1970年代です。
同時代を生き抜いてきたキラ星のような映画人が、スピルバーグ監督について証言します。それは見ものです。
ジョージ・ルーカス、フランシス・フォード・コッポラ、ブライアン・デ・パルマといった監督達はじめ、ダスティン・ホフマン、レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、リーアム・ニーソン、ベン・キングズレー・トム・クルーズ…と、ほとんどアカデミー賞授与式で見かける面々が次々登場してスピルバーグ監督の知られざる面や現場を証言します。
特に、ジョージ・ルーカス、フランシス・F・コッポラ、ブライアン・デ・パルマは共に同時代を築いてきた監督仲間でもあるので、その証言は貴重。いや、貴重どころかナミダモノです。
ルーカスとの友情からインディ・ジョーンズが生まれたきっかけはもとより、「うそ!デ・パルマのあの映画の名シーンをスピルバーグがカメオ演出していたなんて!!」という、超サプライズまで登場。
俳優たちが口にする、スピルバーグ監督の撮影舞台裏。
他では聞いたことがない貴重な証言集ともなっています。
スピルバーグ監督の人となりに肉薄
ドキュメント『スピルバーグ!』は、スピルバーグ監督の私生活まで切り込んでいます。
『フェイブルマンズ』で描かれた兄弟、ご両親さえ登場して、証言します。
その証言から浮かび上がってくるのは、スピルバーグ作品は、監督自らの体験を濾過し映し出したものだった、という事実です。
スピルバーグ監督は、自分と自分の家族の問題と素直に向き合って、自分の過去を役者さんに託して、映画に出していた。
ドキュメントからは、「すごい正直な人…」という像が浮かび上がってきます。
ETにしても、インディジョーンズシリーズにしても、自分が親子関係の中でできなかったこと、したかったことをシナリオに反映させていることがわかりました。
スピルバーグ作品は、全てスピルバーグの生写しなのですね。
スピルバーグ監督はやっぱり…
親子で楽しめるヒット作をへて、『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』といった「人類歴史の負」に光を当てた作品へとコマをすすめたスピルバーグ監督ですけど、その制作舞台裏は、声を大にして必見オススメです。
スピルバーグくらいのビッグピープルになると、発言自体、大きな影響力を持ちますし、映画に込められたメッセージとなれば、なおのこと責任が生じます。
ドキュメント『スピルバーグ!』からは、人類の負の歴史、そしていつまでも変わらぬ「人間業」へのスピルバーグ監督のハラのくくり方を随所から感じました。
『スピルバーグ!』おすすめな人とぼくの評価
スピルバーグの映画を何本かみたことのある人
スピルバーグ映画が好きな人
スピルバーグ映画が嫌いな人
スピルバーグ映画に助けられた人
以上当てはまるなら、観て損はないと思います。
そして、表現芸術に関わる人は、それこそ必見です。
「表現とは自己体験の反映に他ならない。自己体験の反映のない表現は人の心に届かない、、、」ということを、いやというほど思い知らされます。…というか思い知らされました。
見ない方がいい人は……うーん、映画にアンテナ立たない人…くらいかな。…思い当たらないです。
以上、映画とはちょっとテイスト違いますけど、ぼくにとっては映画ラブが、めちゃくちゃ高まったドキュメント映画でした。
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