こんにちは!映画好き絵描きのタクです。今回レビューする映画は、ロバート・レッドフォード出演最後の作品と言われている『さらば愛しきアウトロー』。 2018年公開のアメリカ映画です。上映時間は93分。長尺の映画が多い中、いいですね、この一時間半は!
実在の紳士的銀行強盗フォレスト・タッカーを、ロバート・レッドフォードが渋く演じました。なんと実話です。映画で描かれた時代は1980年代。運営人のぼくの映画入門時代にほぼ丸かぶりの時代です。相手役のシシー・スペイセクも、とーってもいい味を出しています。
『明日に向かって撃て!』でデビュー。以後、『スティング』『普通の人々』『スパイゲーム』と常に佳作に関わり続けたロバート・レッドフォード最後の作品をレビューします。
『さらば愛しきアウトロー』予告編
『さらば愛しきアウトロー』解説
『さらば愛しきアウトロー』(原題:The Old Man & the Gun)は実話です。実在した紳士的は銀行強盗・フォレスト・タッカーの姿を、ロバート・レッドフォードが演じています。
誰ひとり傷つけることなく紳士的な銀行強盗を繰り返したタッカーのエピソードと恋が、ノスタルジックに描かれた映画です。
レッドフォードは本作『さらば愛しきアウトロー』をもって俳優引退を宣言しました。
『明日に向かって撃て!』で鮮烈なデビューを飾り、以後、『スティング』『普通の人々』『スパイゲーム』と常に佳作に関わり続けたロバート・レッドフォードの最後の標柱とした作品です。
スタッフ・キャスト
監督脚本:デビッド・ローリー 撮影:ジョー・アンダーソン 編集:リサ・ゼノ・チューリン 音楽:ダニエル・ハート
キャスト:ロバート・レッドフォード/ケイシー・アフレック/シシー・スペイセク/ダニー・グローバー/トム・ウェイツ/他
『さらば愛しきアウトロー』あらすじ〜ネタバレあり
あらすじは以下、Wikipediaから転載引用します。ネタバレ結末を含みますので、映画を見たい方はご遠慮ください。
1981年、74才のフォレスト・タッカーは単独での銀行強盗に成功し、逃走の際に警察をまくために、未亡人で牧場主のジュエルのトラックに便乗した。老眼鏡が必要な年齢だが魅力的なジュエルと意気投合するタッカー。
強盗仲間で同様に高齢なテディやウォラーと組み、ダラスの銀行を襲うタッカー。ダラス市警のハント刑事は私用で銀行に居合わせたが、逃走後に支店長が声を上げるまで気づかないほど犯行は静かでスマートなものだった。被害者たちは一様に、犯人が高齢で拳銃はチラつかせるが、とても紳士的で笑顔を浮かべ犯行を楽しんでいたと証言した。ハント刑事が調べを進めると、老人による銀行強盗は複数の州に渡り、過去2年間で93件に及んでいた。
銀行強盗を重ねつつ、ジュエルの家を訪ねる仲になるタッカー。老人の強盗はテレビ・ニュースで「黄昏れギャング」と名付けられた。事件が州を跨いでいるためにFBIに捜査権を奪われるハント刑事。だが、ハント刑事の元に中年女性ドロシーから、自分の父親が犯人だと情報提供の手紙が届いた。
タッカーの娘であるドロシーと会うハント刑事。父親の顔も知らずに育ったドロシーは、15才までは服役していることさえ知らされていなかった。亡くなった母親は夫を愛していたが、出所してもタッカーは家族の元に戻らず、犯行と服役を繰り返したと冷たく語るドロシー。
引退した先輩刑事からタッカーの資料を譲り受けるハント刑事。老刑事はタッカーが脱獄の名手であり、楽しむために銀行を襲うと懐かしそうに語った。現場に指紋などは残っておらず、タッカー逮捕の決め手が掴めないハント刑事。だが、強盗仲間のテディが逮捕され自白したことから、タッカーはあっけなくFBIに逮捕された。
少年院の脱走以来、実に16回の脱獄歴を誇るタッカーだが、今回はおとなしく刑期を終え、出所後はジュエルの家で束の間の平和を味わった。しかし、ハント刑事にご機嫌伺いの電話をかけたタッカーに、銀行強盗をやめる気配はなかった。
感想〜『さらば愛しきアウトロー』はレッドフォードからのプレゼント
心根マイルドなワル讃歌
銀行強盗が主人公の映画、、、そう書くとドンパチ激しいアクション映画を想像するかもしれません。
しかし、『さらば愛しきアウトロー」は違います。銃撃戦は一度も出てきません。
劇中、「強盗被害にあった皆」が口を揃えたようにタッカーのことを「紳士だった」というくだりが出てきます。
そうなんです。タッカーはもちろん拳銃を持っているのですが、一度も引き金を引くことはありませんでした。
世紀の二枚目俳優ロバート・レッドフォードが老いを逆手に取り、82歳にして演じた紳士強盗フォレスト・タッカーには、映画を観ているぼく自身さえも惚れてしまうような魅力がありました。
フォレスト・タッカーの仕事観
おおかた世間の誰もが「仕事」を持っていますよね。
仕事が楽しいかどうかはひとまず脇に置いて、「やっていて楽しい事に仕えるのが「仕事」だ」と仮定するならば、タッカーの「やっていて楽しい仕事」は、それが法に触れる「銀行強盗」だっただけで、彼はそれを「悪事」とはみなしていなかった。
もちろん銀行強盗は道徳的には間違っていて反社会的な事です。銀行強盗を認めているわけではありません。
しかし、道義的かどうか、道徳的かどうかを一旦脇に置いて話を進めます。
タッカーが銀行強盗を繰り返していた根っこは、あくまで子供が楽しいことやスリルに夢中になるのと同じレベルで、「夢中になれる楽しいこと」が銀行強盗だったということ。
それが映画を観ているとわかります。
少年院時代から逮捕脱獄を繰り返してきたというタッカーは確かに世間的に考えるならワルです。
しかし、ワルでもその心根には彼なりの優しさがあったように感じました。
ほら、ぼくらの周りにもいるじゃないですか。ワルでもイイヤツ、優しいヤツって。
『さらば愛しきアウトロー』にあふれる幾つものラブ
シシースペイセク演じる未亡人ジュエルに想いを寄せてしまうタッカーの物語が映画のかなりを占めます。
その二人の会話とタッカーの表情からは、ワルの片鱗は一筋も見えません。しかし決してタッカーは自分の心を隠しているわけではなく、ジュエルに対して話すタッカーの視線から感じるのは、ナチュラルな愛、とぼくは受け止めました。
『さらば愛しきアウトロー』は、純粋な大人のラブストーリーなのです。
今、ラブと書きましたが、そのラブはジュエルへの愛でもあると同時に、「君はどう生きるか?」への愛ある答えをも含んでいます。
また、タッカー逮捕に関わるダラス市警ハント刑事とその妻が、偶然ダイナーで初めてタッカーとジュエルのテーブル近くに座るシーンがあります。
観ている方は「タッカー、こりゃ逃げるか??クライマックスか???」と思いますが(ぼくは思った)さにあらず、タッカーはハントに声をかけます(!)
このシーンには、二つのラブが描かれています。
一つはハント刑事が妻に寄せる愛。
そしてもう一つは、タッカーとハントの人生における奇遇な出会いへの愛です。
そにシーンが誰から誰へ向けたラブかというと、製作側が観客に送ったラブだとぼくは感じました。
同時にロバート・レッドフォードから引退最後のプレゼントだった、、、そうぼくは思います。
原題『The Old Man , and The Gun』がくれる別の視点
銃は使わないタッカー
クライマックスはカーチェイスの末に警察に包囲され、逮捕となります。
過去の銀行強盗での逮捕シーンもあります。
しかし、どちらも拳銃はダッシュボードの中にあります。逮捕時に拳銃の代わりにタッカーが使うもの、それは、なんと「スマイル」でした。
この演出のニクさに、お手上げでした。
『さらば愛しきアウトロー』と『老人と海』
さて、ここで『さらば愛しきアウトロー』の原題を調べてみましょう。
原題は『The Old Man , and The Gun』です。直訳するなら『老人と銃』。
ふと、どこかで似たようなタイトルを見たなあ、、、と思い、はたと気が付きました。
『The Old Man , and The Sea』、そう、ヘミングウェイの名作『老人と海』です。
『老人と海』のストーリーは、老いた漁師がどでかいマカジキと格闘する話です。
この小説のタイトルにある「老人」「海」というワードは、とても深い意味を抱えています。
『The Old Man , and The Gun』=直訳=『老人と銃』もまた同じようにさまざまな意味が含まれていると感じました。
劇中、タッカーが一度も拳銃を握らなかったことは、タイトルの「Gun=銃」は、ただ単に拳銃を指していないことがわかります。
銃は武器です。武器にもさまざまな意味があります。
「あなたのとっての武器はなんですか?」と聞かれたならば、なんと答えるでしょう?
あるひとは「プレゼンテーション能力」と答えるかもしれません。
またあるひとは「パソコンスキルかなあ」と返すかもしれません。
もしかすると「笑顔です」と言う方もいるかもしれません。
そう、武器は「人となり」でもあるのです。
そんなふうに、『The Old Man , and The Gun』という原題から考えてみると、『さらば愛しきアウトロー』からは、観る人それぞれが深い意味を見出せるように作られた作品、、、のようにぼくには思えます。
ということは、『さらば愛しきアウトロー』は、ロバート・レッドフォードが映画人として積み重ねてきた経験を「映画」という形で包んだ、観客への手紙のように思います。
「映画ってすべからく素晴らしいものだ。それは、人それぞれ違う人生が、しかしそれぞれに輝いているように。そのことを伝えたいから、ぼくは引退する映画にこの脚本を選んだんだ」
ぼくには、そんなロバート・レッドフォードの声が聞こえたような気がしました。
感想〜『さらば愛しきアウトロー』は名作文学へのオマージュだ
オープニングシーンに隠された「トム・ソーヤーの冒険」
『老人と海』まで登場させてしまって、今回のレビューは筆が滑り気味です。
筆滑らせついでに、もう一つ、『さらば愛しきアウトロー』がオマージュを捧げていると思われる、一冊の本との関係を書いておきます。
その本とは、マーク・トゥエインの書いた『トム・ソーヤーの冒険』です。
「え?トムソーヤー?」って思われるかもしれません。
しかしぼくは、『さらば愛しきアウトロー』は、その背景にトム・ソーヤーへの憧憬が横たわっているように感じています。
ちなみに映画を観た直後、ぼくは思いました。『トムソーヤーの冒険、今、読まなきゃ後悔する!」と。そして本棚の奥にあった「トムソーヤーの冒険」を探し出し、読み直していました。
ここからは「トム・ソーヤーの冒険」を読んで、ぼく自身が確信したことを書いておきます。
なぜ、『さらば愛しアウトロー』は「トム・ソーヤーの冒険」なのか?
その理由、一つめは、冒頭オープニングにあります。
⚫︎壁を塗る少年たちへ託された思いとは
冒頭、タッカーが銀行へ入ってゆくシーンがあります。
そこでチラリと、「ペンキの缶と壁塗り用の長い柄のハケをもった少年たちが画面を横切ります。そして壁塗りを始めようとする、、、」そこでカットが変わります。
「ペンキと壁塗り」は「トム・ソーヤーの冒険」のオープニングです。
どんなオープニングかというと、物語の中でトムは、板塀の壁を白いペンキで塗る仕事を言いつけられます。
しかしトムは板塀塗りなんて、単調で嫌でしょうがない。
そこでトムは知恵を働かせ、「こんな楽しい仕事は他人に任せられないぜ」と、通りかかる少年たちを次々と口車のせ、うまいこと板塀を塗ってもらいます。
トムのその知恵は、大人の言葉で平たく言うなら「悪知恵」です。
でも、原作者マーク・トゥエインは、トムのその知恵を「悪知恵」とは言いません。トムのアイデアはあくまで純粋な少年スピリッツなのです。
タッカーの口車に乗せられカバンに現金を詰め込んだ銀行員は、「トム・ソーヤーの冒険」の口車に乗せられて壁塗りを楽しんだ少年たちではないでしょうか。
ぼくにはタッカーが「永遠の少年」そのものに見えて、しょうがなかったのです。
⚫︎「チャプチャプ号」はトムとハックのイカダだ
また、タッカーが過去に何度も脱獄していたことを表すエピソードシーンがあります。
その中で脱獄に使った手製ヨットが登場します。
手製ヨットはまるで子供が夏休みに楽しんで作ったようなシロモノで、「チャプチャプ号」とわざわざ手書きされています。
先の壁塗り少年たちを目にした後にお手製ヨットをみた瞬間、ぼくの顔は「トムとハックの作ったお手製イカダじゃないか」と、にやけていました。
⚫︎ジュエルはトムの恋したベッキー
極め付けはタッカーの抱くジュエルへの淡い想いです。
トム。ソーヤーではトムが転校生ベッキーに、少年らしい恋をします。
ジュエルとタッカーの老人らしい恋(失礼!)をスクリーンに見た時の微笑ましさと切なさ。それはトムとベッキーのやり取りを読んだ時に感じた微笑ましさ、切なさとまるで一緒でした。
『さらば愛しきアウトロー』とマーク・トゥエインの名言
以上のことから、ぼくは映画『さらば愛しきアウトロー』から、タッカーは彼の生涯を通じて「トム・ソーヤーの冒険」を体現した男だった、と受け取っています。
それは著者マーク・トゥエインの名言からも明らかだと、ぼくは思います。
その言葉を記しておきます。
『今から20年後、あなたはやったことよりも、やらなかったことに失望する。
ゆえに、もやいを解き放て。 安全な港から船を出せ。 貿易風を帆にとらえよ。
探検せよ。 夢を見よ。 発見せよ。』
-マーク・トゥエイン-
タッカーは世間的に言えば犯罪者でした。しかし、もやいを解き放ち、夢を見続けた男でもあったのではないでしょうか?
さらに言うならば、『さらば愛しきアウトロー』を自分の最後の作品として選んだロバート・レッドフォード自身が、21世紀のトム・ソーヤーであり。「少年時代の夢」を人生の黄昏時まで忘れなかった、稀有な映画人だった、、、と、ぼくは思うのです。
以上がぼくのトム・ソーヤー考です。
壁塗りシーンのイラストが本の表紙になっています。画像を載せておきます。
『さらば愛しきアウトロー』最強のセリフたち!
最後にタッカーがジュエルと交わす会話の中に登場するぼくのお気に入りのセリフを書いておきます。
ジュエルに理想の生き方を聞かれたタッカーはこう答えます。これ、たまらないです。
「問題は僕がどこにいて何をしていようとも、子供の僕が今の僕をみて誇りに思うかどうかだ。
答えがノーならまだ努力を続けるし、答えがイエスなら理想の自分になったってことだ。」
「理想の自分になれた?」というジュエルの問いに
「日々近づいている」とタッカーは答えます。
さらにお気に入りのセリフをもう一つ。
FBIに捕まったカッターは、聴取室で取調官からこう言われます。
「お前なら楽に生きられるじゃないか」と。
それに対してタッカーはこう答えます。
「楽に生きるなんてどうでもいい。楽しく生きたい。」
『さらば愛しきアウトロー』ぼくの評価
五つ星です。
映画が素敵なエンターティメントだということを、改めて教えられました。
こんな素敵な映画をくれたロバート・レッドフォードと製作陣にありがとうを伝えたいです。
『さらば愛しきアウトロー』レンタル・配信先
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